工藤吉生が選ぶ 2015上半期短歌大賞【後編】  ツイッター部門、現代短歌史部門、その他歌集・歌書部門

工藤吉生が選ぶ 2015上半期短歌大賞 60首。後編。


次はツイッター部門。歌に出会うのは紙の上ばかりとは限らない。半年間のタイムラインに流れてきた歌から、良かったものをツイートする。
「なんたる星」はここに含めることにした。
ツイッターをやらない人にはよくわからない言葉も出てくるかもしれません。


わたくしはここにゐますと叫ばねばずるずるずるずるおち行くおもひ/奥村晃作
25/60

→奥村さんは毎日いくつかの歌をツイートしている。そのなかから。


コンドームだけの財布が浜にあり波は近づきたそうな動き/加子
26/60

→「うたの日」の歌らしい。オレはそこには行かないけど、ツイートされれば目に入ってくる。
考えるほど見え方が変わってくる。


バッドエンドのための海辺の小屋に来てなぜか照らされている金槌/木下龍也
27/60

→この「なぜか」はいやらしいよねえ。それが凶器になって殺されるから照らされているんだよ。
と書きかけて、やっぱり変だぞと思った。自分の殺されかたが前もってわかるなんておかしいんだよ。
アイテムが光っちゃうのはゲームあるあるだ。小屋で金槌で殺されるの、やな死に方だなあ。

「のための」。
悪い結末のために建てられた小屋とか、嫌すぎるな。
世の中にもそういう場所ってあるんだろうか。そこへ行くと不幸な最期をむかえることが決まってしまうような場所。


死ぬんじゃないまだあなたには競輪も競馬も競艇だってあるのに/はだし
28/60

→いいことあるから生きろと励ましているようで、さらなる地獄を見ろと言っているようでもある。ギャンブルには天国と地獄の二つの面がある。


世界一孤独な鯨の周波数 51.75Hz/やじこ
29/60

→「ヘルツ」っていう単位が、昔ラジオ好きだったオレにはたまらない。一人で夜中に聴いていたものだ。
ラジオのノイズと、鯨の出しそうな音が重なる。


化膿性合併症と化膿性合併症に分類される #tanka
ウィキペディア日本語版「咽頭痛」より http://t.co/dLCl77ZbK7
/偶然短歌bot
30/60

→偶然短歌botが出てきたのがこの半年だったのでそこから一つ。
Wikipediaには「非化膿性合併症と化膿性合併症に分類される」とある。エラーというかミスというか、そういったものがもろに出た歌。人には作れない歌かなあと。


ここからは「紅白短歌合戦」から四首。さすが丸一年間のなかのベスト一首だけあり、素晴らしい歌が多かった。

人権の数だけチョコレートをあげる 君と君と君には空港をあげる/二三川練
31/60


パンプスで立つバッティングセンターでヒロインとして試されている/深影コトハ
32/60

→作者名も合わせて、カタカナ多いなあ。いいんじゃないでしょうか。


僕たちのものじゃなくなる日の朝に全ての窓を磨く母さん/chari
33/60

→オレんとこは両親が離婚してるんだけど、こういう歌でてくると古い傷に染みますよ。出ていくお母さんっていうのを描いた歌ってなかなかないんです。
最後まで家のことをやっている、最後まで「母さん」でいる「母さん」。


レシートをおりづるにするイヴァノヴォの岩窟教会さしこむひかり/かかり真魚
34/60

→レシートから岩窟教会は、かなり遠い。調べたらブルガリアにあるらしい。それを折り鶴でつないでいる。一枚のレシートが飛躍する。


JTB買春ツアー一行はそこをわくわく島と名付けた/伊舎堂仁「働いてるので女子と喋れる」
なんたる星 2月3月合併号
35/60

→おもしろい歌の多い人で、迷った。
名前をつけることによって島の性質が固定される。旅行者がそれをするというのがなんとも暴力的というか傲慢だ。そういう意味での「わくわく」じゃない部分もたくさんあるはずなのに。地名って味わいのあるものが多いだけに、なおさら。


ウエディングドレスの中にいる人が手をあげるここはどこにでもある/恋をしている「どこにでもある」
なんたる星 5月号
36/60

→ウェディングドレスというのは着ることに意味が生じる。なんでもないのに着たりするようなものではない。非日常と言ってもいい。
手をあげることでその場所が「ここ」になる。結婚式場という空間でもあるし、人生のひとつの節目でもある。
ある空間・ある時間に点を打つようにあげられた手だ。
って、前にも同じようなこと書いたんだけどさ。
「中にいる人」もちょっとした表現だ。立派な服だと、人が服を着てるのか服に着させられているのかわかんない感じになる。


一度コメントしたものにまた何かぶつぶつ言うのもどうかと思ったけど、工藤がなぜそこまでこの歌を良いと思ってるのかを言っておいた方がいいようにも思うし、そこはぶれているところです。


ツイッター部門はこれで終わりです。ツイッターをやってるような若い人の歌が続きました。
ここでガラリと変えます。次は、篠弘「現代短歌史」部門です。この半年は、オレにとっては『現代短歌史』を毎日少しずつ読んだ半年でした。そこで読んだ昭和二十年代から三十年代の歌から印象に残ったものを。


泥濘に小休止するわが一隊すでに生きものの感じにあらず/宮柊二
37/60


銃とらばまづはうつべきわが敵と思ひさだめて敬礼をせり/小原武雄「汚辱の日」
38/60


ゆうべ死にし友の私物のおおかたは剥ぎとられたり朝日の中に/森川平八「北に祈る」
39/60

→私物が剥ぎ取られることが、肉体の死とは別の死のようだ。そのひとを形づくっていたものがバラバラになってゆく。
朝の陽がせつない。明るくても悲惨なことは悲惨だ。


砲弾の炸裂したる光には如何なる神を人は見るべき/佐藤佐太郎
40/60


挑発に乗るなと常に叫ぶ声ついに切なし、その夜半も過ぐ/近藤芳美「夜と薄明」
41/60


子が問へる死にし金魚の行末をわれも思ひぬ鉢洗ひゐて/島田修二「ギプスと三輪車」
42/60

→この子にとって金魚の死は、初めて遭遇した死かもしれない。死んだら金魚はどこにいくのと問うている。
鉢を洗う行為は、さっきの歌の私物を剥ぐ行為に、似てるといえば似ている。金魚がいた形跡が、きれいになくなる。いつも鉢にいた金魚は鉢を出てどこに行ったのか、行けるのか。


みづからの内がは覗く恐ろしき青き手摺(てすり)を冬にもつなる/前川佐美雄
43/60


モスクワ・ゴリキー街の日曜日の暗き写真あり濡れし紙屑の中/塚本邦雄
44/60

→ゴーリキイというと条件反射みたいに「どん底」という言葉が思われる。
「日曜日」から家族写真を想像した。屑同然に捨てられている。


「現代短歌史」部門は以上であります。最後は「その他 歌集・歌書部門」です。そのほかのオレの読んだ本からの16首です。「オレがこの半年に読んだ本」といっても「知らんがな」って話になるので、あらかじめ何を読んだかは前回書いておきました。

古い歌が続きましたんで、こんどはネット周りの本から始めて、だんだん古い方へ行って、古い歌に最後を締めてもらうことにします。


うみが呼ぶ 蹴れば自分が痛いつて気づいた子から道具をつくる/西藤定「雨より海は生まれき」
みずつき4
45/60


友だちの友だちがパーマン、パーマンの友だちの友だちに照る月/牛隆佑「スローモーションの雄叫び」
大阪短歌チョップ メモリアルブック
46/60


中庭の桜 告白するあいだ黒板消しは叩かれていた/わんこ山田
うたつかい2015春号
47/60

→中庭っていう設定がうまいんだろうと思った。
黒板消しを叩くというのが懐かしいところ。
小さい掃除機みたいなやつで黒板消しをきれいにするのもあるけどね。それが無い場合は日直とか係の生徒が窓際で黒板消しを叩いてた。
清掃の生徒もいれば告白する生徒もいる。学校の人間模様。


白鳥はなすすべもなく飛び去って川いちめんにお城がうつる/土岐友浩「Honey Cake」
神楽岡歌会一〇〇回記念誌
48/60


右耳で恋愛相談受け付ける左手で描く力作コロ助/寺門玲子「生活」
東北大短歌 創刊号
49/60

→恋愛相談を「受け付ける」っていう余裕。しかも片耳で。絵のほうも、力作といえるクオリティで描いている。コロ助は幼くて明るいキャラクターだ。
この余裕のこき方、気楽さはいいなと。


きつと直ると励ます吾に首振りて涙を流す夫に言葉なし/早瀬伶子
年刊詞華集二〇一三
50/60


禁色(きんじき)はぬばたまの夜の漁火(いさりび)か!!恋は 渦潮(うずしお) 伽裸繰裏(からくり)……呪縛……!!/鈴木城頭土
短歌生活 6号
51/60

→「短歌生活」は角川全国短歌大賞の作品集。成績はふるわなかったが、ひときわ目立つのがこの作者の歌だった。


ツアーバスと並走長き護送車の開かぬ窓のカーテン揺るる/福地公子
NHK全国短歌大会入選作品集
52/60


冬至の日象のメリーが南瓜割る鎖に繋がれてない方の足で/高原晴子
NHK全国短歌大会入選作品集
53/60

→そういえばこの大会のチラシが来てたなあ。
NHK全国短歌大会は、さすが大きい大会だけあり、いい歌が多い。オレは全然ダメだった。この二首はどちらも選者賞の歌。


誰とでも仲よくと朝子に言いて関わるなとも夕方に言う/重松美智加「ぽわん」
NHK全国短歌大会入選作品集 近藤芳美賞発表のページから
54/60


近藤芳美賞の出詠料五千円にいつも二の足を踏むオレだ。それでも435組の応募があったそうで、金額に換算したくなる。


別れずにすむ術どこかにあるような光のそそぐ道にて待てり/岡本幸緒『十月桜』
55/60

→この歌を見るたび、これから起こりそうな苦しいことやつらいことすら好転させるような、そんな光というのを想像する。


降る雪に街暮れなずみ時計屋にときたがえたる時計がならぶ/川田一路『NEXT ONE』
56/60


この変なリアリティは何だ、みづからを埋め来しやうな手の土の匂ひ/河野裕子『家』
57/60


塔の人の歌集から三首でした。
あんまり歌集を読まない半年だった。もともとあまり読まない方なんだけどさ。でもできればいろいろ読んでいきたい。


探照燈の光箭(くわうせん)交(かは)す夜空なり生死(しやうじ)一大事決まりたるなり/吉野秀雄『寒 集』
58/60


国こぞり力のもとに靡くとは過ぎし歴史のことにはあらず/柴生田稔『春山』
59/60

ブックオフで108円で買った「日本詩人全集29」から二首でした。昔の有名な人の歌をある程度まとめて読みたいというオレのニーズにぴったりな本だ。


茫々としたるこころの中にゐてゆくへも知らぬ遠(とほ)のこがらし/斎藤茂吉『つきかげ』
60/60

岡井隆『茂吉の短歌を読む』で見た歌。
「こころの中にゐて」がいいなあ。こころの中に自分がいる。



以上の60首であります。さて次の半年はどんな歌と出会うのでありましょうか。
2015上半期短歌大賞の発表をおわります。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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