上野誠『はじめて楽しむ万葉集』 第三章、第四章

第三章



天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ/作者未詳





道の辺の いちしの花の いちしろく 人皆知りぬ 我(あ)が恋妻は/作者未詳

いちしの花=彼岸花
いちしろく=いちじるしく




君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし 秋の風吹く/額田王

「君」は女性が男性を呼ぶ、呼びかけの言葉。
「屋戸」は建物の出入り口。




我が妻は いたく恋ひらし 飲む水に 影さへ見えて よに忘られず/若倭部身麻呂(わかやまとべのみまろ)

わたしの妻は、たいそうわたしを恋い慕っているらしい……。飲む水に影さえ見えて、どうしても忘れられない。





音に聞き 目にはいまだ見ぬ 吉野川 六田(むつた)の淀を 今日見つるかも/作者未詳

吉野川は壬申の乱で重要な役割を果たした土地で、聖地のような場所。歴代の天皇が行幸(天皇が旅すること)をした。その噂を聞いた人が吉野川を見たという歌。




石麻呂に 我物申す 夏痩せに 良しといふものぞ 鰻(むなぎ)捕り喫(め)せ/大伴家持

痩す痩すと 生けばあらむを はたやはた 鰻を捕ると 川に流るな/大伴家持


夏痩せに鰻が効くというのは万葉の昔からの生活の知恵。痩せている人へのからかいの歌。

石麻呂は痩せているんだから鰻を捕って食べなさい
ちょっと待てよ、痩せても痩せても生きていられるわけだから、鰻を捕ろうとして川に流されるなよ。








第四章


生ける者(ひと) 遂にも死ぬる ものにあれば この世にある間は 楽しくをあらな/大伴旅人

吉田兼好「人皆生を楽しまざるは、死を恐れざる故なり」





銀(しろがね)も 金(くがね)も玉も なにせむに 優れる宝 子に及(し)かもやも/山上憶良




我妹子は 衣にあらなむ 秋風の寒きこのころ 下に着ましを/作者未詳

自分の恋人は衣であってほしい、秋風が寒いこの頃は下に着たいので。

好きな男性に女性が自分の着ている下着を贈ることは、一般的な行為であった。





万葉集には食べ物のならぶ歌もある。





月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長く恋ひし 君に逢へるかも/大伴坂上郎女

眉が痒いと恋人がやってくるという俗信があった。痒くないが眉を描いていたら恋人がやってきたという歌。




我がやどに 植ゑ生(お)ほしたる 秋萩を 誰か標(しめ)刺す 我に知らえず/作者未詳

標とは、自分の土地であることを示すための目印。自分の家の庭に許可なく入って標を刺したやつがいるという意味。と同時に、大切な娘に手を出した男がいるという意味でもある。





石上(いそのかみ) 布留(ふる)の早稲田(わさだ)の 穂には出でず 心の中(うち)に 恋ふるこのころ/抜気大首(ゆきけのおほびと)

石上布留は奈良県の地名。早稲田は早稲が植えられている田圃。穂は頬でもあり炎でもある。
穂のように飛び出すことなく=頬の表情に出すことなく、心の中で恋をしている。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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