岡本幸緒『十月桜』を読む  ~わたしの椅子はあるのだけれど、ほか

岡本幸緒さんの歌集『十月桜』を読みました。歌を引いていきます。
2010年、第一歌集。塔の方です。1997年から2009年までの歌のなかから440首をまとめたとあります。



ふるさとで爪を切るとき爪切りのばね去年よりゆるくなりたる/岡本幸緒『十月桜』


人のにおいまだ染み込まぬ大江戸線だれかを追って空き缶転がる/岡本幸緒『十月桜』


悔しいとき下唇の内側を噛む癖をまだ君は知らない/岡本幸緒『十月桜』

→どんな感じなのか、やってみたくなりました。
これはなかなか気づかない癖でしょうね。


ばさばさと物を捨てゆく本当に捨てたいものにたどりつくまで/岡本幸緒『十月桜』
→ばさばさという音から紙を想像しました。また、勢いのある捨て方のようでもあります。
本当に捨てたいものは、こちらには明かされません。モノじゃないかもしれませんね。


求めあうように右と左からドア近づいてひったり閉じる/岡本幸緒『十月桜』
→この歌集には「ように」が多くて、たとえばこの74・75ページの見開き6首のうち3首に使われているんですが、良い歌も多いです。
自動ドア同士が愛し合っているみたいに見えてきます。


キッチンとオフィスにわたしの椅子がある わたしの椅子はあるのだけれど/岡本幸緒『十月桜』
→家庭にも職場にも、自分の本当の居場所がないような、そんな生きづらさでしょうか。


きっかけはたやすく見つかる骨密度測るときには指輪を外す/岡本幸緒『十月桜』


まず父にその次に母 コンビニのおにぎりむいて手渡していつ/岡本幸緒『十月桜』

→ある年代以上になると、コンビニのおにぎりを自分であけられない人が増えてくるのでしょうか。コンビニに馴染みがないと、戸惑うかもしれません。あるいは指が自由でないのか。このご両親は子にむいてもらっています。


秋の葉の原の駅から日の暮れる里の駅までまどろむ七分/岡本幸緒『十月桜』
→地名を分解しています。都会の地名でも詩情がでてきます。
まどろむ時に意識がばらけていくような気持ちになることがオレはあります。


生まれてはいない時代の音楽が懐かしいのはなぜなのだろう/岡本幸緒『十月桜』


別れずにすむ術どこかにあるような光のそそぐ道にて待てり/岡本幸緒『十月桜』

→どんな光なのでしょうね。そんな光が降り注いでいても、やはり別れるしかないのでしょう。別れをするために待っているところでしょうか。


決めている 私がふたこぶ駱駝ならひとつのこぶに入れておくもの/岡本幸緒『十月桜』
→それはなんでしょうね。言わずに大事に入れておくようなものかもしれません。
ラクダって、別に自分の好きなものを選んでこぶに入れてるわけじゃないんでしょうけどね。でもそうだったら夢があります。


嘘をつくときに力の入る場所 身体の、心の、多分端っこ/岡本幸緒『十月桜』
→嘘をつくときに力が入るということへの気づき。身体や心のどのへんなのか突き止めたらさらに面白いかもしれません。


高層のホテルの窓は開かざりきマッチ箱ほど海が見えたり/岡本幸緒『十月桜』
→海はとても小さくて、窓ガラス越しにしか見ることができない。届かない海の歌と読みました。


189ページまで歌がありますが、145ページを最後に丸がつかなくなりました。


解説で花山多佳子さんが、岡本さんについてはいまだに知らないことが多いことや、病気以外の事柄が語られないことを書いています。
確かに何かをあえて言わずにいるようなもやもやした印象をもちました。良くも悪くも。

あとがきでは、塔の何人かの方の名前が感謝の言葉とともに見られました。結社の利点のひとつとして、歌集を出すときにサポートしてもらえるということがあるようですね。



おわります。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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