「塔」2015年5月号を読む【後編】  ~ジャックの顔に似ている死体、ほか

塔2015年5月号のつづき。



作品2、池本欄

日によりて三人のうちの誰かしら笑まふがに見ゆ官女の雛は/清原はるか
→この5月号は3月ごろの歌が多く寄せられています。ひな祭りの季節です。
オレは雛人形に思い入れはないんですが、この歌からは毎日お雛様をよく見ている様子が伝わってきます。


残されるものはくるしい昔むかし中島みゆきが歌ったとおり/空色ぴりか
→歌のなかに出てくると高確率で反応してしまう言葉というのがあって、「中島みゆき」はその一つです。
「わかれうた」の歌詞を踏まえているのでしょう。1977年の歌です。

恋の終わりは いつもいつも
立ち去る者だけが 美しい
残されて 戸惑う者たちは
追いかけて焦がれて 泣き狂う

「わかれうた」中島みゆき



それならば君が主宰になればよい飲み放題は三千円なり/村崎京
→歌会のあとの二次会でしょうか。塔について不満をこぼしたり批判している。「それならば君が主宰になればよい」なんて言葉も飛ぶ。酒の席でのざっくばらんな様子を伝えた歌と読みましたが、ドキッとします。


イの音にちからを入れて麦の歌うたひつつ子は路地駆けてゆく/岡本伸香

麦に翼はなくても 歌に翼があるのなら
伝えておくれ故郷へ ここで生きてゆくと
麦は泣き 麦は咲き 明日(あした)へ育ってゆく

「麦の唄」中島みゆき


「麦の歌」は中島みゆきの歌です。また中島みゆきです。テレビドラマで流れた歌です。
確かにイの音に力を入れる歌ですね! 言われてはじめて気がつきましたよ。
むぎーはなきーむーぎーはさきー、という部分のことでしょう。

「麦の歌」じゃなくて「麦の唄」がただしい表記でした。減点。
まあオレも気がつかなかったから迂闊だったが。



作品2、花山欄

ハイ、ハイとスマホに応え工事場の錠前開けて入りゆく人/杉山太郎


我が畑を荒らしし猿はこの冬を何をば食べて如何に生きるや/土田耕平

→かつて自分の畑を荒らした猿のことを、この冬はどうやって越してるだろうかと思いやっている。優しいなあ。

この作者の名前は本名か知らないけど、農業っぽい名前だなあ。土や田を耕して平らにしているみたい。


高倉健逝つてしまつて日本の男の半分失ひたりき/吉村久子



特別作品
橋本恵美さんの名前をよく見かけるような気がする。と思ったら三月号にも特別作品を載せている。頑張ってるなあ。多作な方なんだろうか。新聞歌壇やそのほか投稿欄でも名前をみかける。


快速の電車に通り過ぎられる駅の気持ちを思えば一人/大坂瑞貴「青い便箋」
→失恋を正面からあつかった連作に好感をもった。
すずらんの花言葉の歌があり、検索したりもした。



作品2、江戸欄

ストレスをかけずに野菜を煮ましょうと朝のテレビからやさしい声する/鈴木緑


「すみ・・・・」のすを聞くか聞かぬに空(くう)を切り弾き出されるカード一枚/藤かをり

→競技かるたの歌でしょうか。二句から三句のK音、「空を切り弾き出される」という動きの描写がいい。



誌面時評
これはもしかしたら、全部終わってようやくひとつのアイデアになるのかもしれないと思い始めてきている。
「有望な人材を発掘し、実地訓練を施し育成します」なんてのを読むと、ここはどういう組織なんだろうと思えてくる。

二段階評価を三段階へっていうのは少しおもしろい気がした。選者の負担はどうだろう。新樹集への選出があるから、今だってその意味では三段階といえなくもないんだけどね。

作品と評の同時評価システムはあんまりおもしろくなさそう。この人にとって面白いならそこは何も言えないけど。
今だって選歌後記は同時掲載になっている。百葉箱もそう。
選歌欄評をこれ以上急がされるのはいやだなあ。担当からすれば。

評が二ヶ月遅れたっていいと思うんだがなあ。毎月届く塔を読んでもらってる、それに対して反響がある、というのが実感できて。
時間をおいて作品を見直してみるのもよいと思う。

賛否はあるけど、少しでも誌面を良くしていこうというのが感じられる誌面時評なので、いいんじゃないでしょうか。



作品2、永田淳選歌欄

後ろ手にキャリーカー引きさまよいている媼また誰かにぶつかる/小澤京子


あの時代のウルトラマンはよかったよ敵は宇宙人侵略者のみ/小山美保子

→比較的新しいのだと「ウルトラマンコスモス」はよく見てました。敵はどうだったかなあ。
宇宙人じゃない、侵略者じゃないとなると、光線でひと思いに気持ちよく倒せない気がしてきます。敵の変化は時代の変化と関係あるのでしょうか。


新聞のKENJIの写真に子どもらは鋏を入れず冬の教室/谷口富美子
→後藤健二さんに関する歌が今月は多かったです。
社会の授業かなにかで新聞を切り取ることがあるんでしょうね。報道の扱い方に特徴がある歌でした。


トランプをばら撒く時に覗かせるジャックの顔に似ている死体/真魚

あなたまた笑ったでしょう踏切のサイレンが鳴り始めたとたん/真魚

→こわい歌がならびます。
トランプの絵札の顔は死んでる人みたいですね、たしかに。

踏み切りのサイレンなんて少しも面白可笑しくないです。それで笑うというのはどういうものの感じ方なんでしょうね。



「方舟」
滝友梨香さんの「アマゾンにご注意あれ」は、短歌や俳句に「アマゾン」という言葉を入れると良い成績になりやすいため、同じような発想の作品が次々あらわれ賞をとったり、真似をする者がいるという内容。

オレも実はアマゾンという言葉の入った俳句をとりあげたことがある。「おーいお茶」の俳句について一度だけツイートしてブログにまとめたことがあるんだけど、その時に「アマゾン」の俳句があった。

お~いお茶を飲んで、俳句を読んだ ▼存在しない何かへの憧れ http://t.co/mlMpESJSRy

第二十四回伊藤園新俳句大賞 一般の部B 大賞

アマゾンに九十二才の初鏡 (ブラジル・92歳・服部タネ)


別にこの方が真似したとかどうとかいうんではないんだよ。偶然ということがあるから。
この句を今読み返してみて、「アマゾン」に頼りすぎてる感じはそれほどしない。92歳もいいし、初鏡をもってきたのもいいと思います。

まあこのへんはむずかしい問題だよなあ。もうたくさんあるからこれからはその単語を使うなっていうのも違う気がするし。


村松建彦さんの、映画の思い出をつづった文章もおもしろかった。昭和24年の日記というのが興味深い。兄弟で同じ映画を見ているんだが、兄弟両方が当時の日記を今でも残しているのがすばらしい。

昭和24年当時の小学一年生の弟と小学四年生の兄の日記があるんだが、どちらも同じ内容を書いている。似た兄弟だったのかなあ。
晩御飯の時間をずらしてもらったこと、山本さんのこと、映画の内容、という順番も同じだ。

違うのは、弟は「8月26日 金曜日」と書いていて兄は「8月26日(土)」と書いていることだ。
一体この日は金曜日だったのか、土曜日だったのか。

オレそれ調べたんだよ。そしたら金曜日だった。
http://t.co/iIgwuEI1cN
弟さんがただしい曜日を書いていた。



作品2、小林欄

歩道橋手すりの上にひつかきし落書きの文字「いまとびたとう」/花凛
→「いまとびたとう」。前向きな言葉のようだが、歩道橋からとんだら大変なことになる。面白がっていいのか怖がっていいのか。

ひっかいた落書き、というところからすると、怖いほうかな。それを伝えようとする執念というか情念というか、なにかの念がこもっていそうだ。



作品2、三井欄

胸ぐらをわしづかまれし感覚の残りたるまま仮眠より醒めぬ/足立訓子
→目覚めても夢の感覚が残っていることはたまにはあるけど、これはいやな感覚だなあ。胸ぐらをつかまれることってほぼない。つかむこともない。そもそもなんだろうあれは。殴る一歩手前ってこと?
「鷲掴み」とは言うけど「わしづかまれる」とはあまり言わないものだ。


洗えども魚の臭いとれぬ手をキャバクラ嬢のひざに置きいる/永久保英敏
→魚の臭いのとれない膝になっていなければよいが。
(「キャバクラ嬢」に反応して丸つけてしまった感じです)



若葉集

手の甲に雨粒一つおちてきてパンスペルミア説を想起す/山川仁帆
→「パンスペルミア説」を知らなかった。響きがいいし気になったから調べた。
「地球の生命の起源は地球ではなく、他の天体で発生した微生物の芽胞が地球に到達したものであるという説。」だそうだ。
調べたらわかる歌になったが、これならわからない状態も悪くなかった。


喧噪の渦に溶け込み一リットルのジョッキ飲み干す我が娘勇まし/上森静子
→飲み会に親がついてくることってなかなかないんじゃないか。珍しい内容の歌だと思った。


解説は白鵬について話す中、淡々と塩を撒く豊ノ島/大坂瑞貴
→豊ノ島は解説を聞いてはいないだろうけどね。言及されずにいる画面の豊ノ島に心が寄せられている。


切り分けし林檎に楊枝さしたままあの朝母は患者となりぬ/丸山真理子
→Iの音からのA音とか、計算してやってるのかなあと思った。「楊枝」だけがOの音で浮き上がるようになっている。


とりあえず自分が悪いと言っているそのとりあえずを怒られて泣く/猫丸頬子


今月の塔からは以上です。



塔に載ったオレの短歌のまとめはこちら
http://matome.naver.jp/m/odai/2138733227024647201


んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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