「歌壇」2015年5月号を読む  ~願えば叶うと申しますわね、ほか

「歌壇」2015年5月号。特集は「次代を担う注目の新星たち」ということであります。



巻頭作品から。

黒柳徹子八十一歳の素顔をおそるべきものとおもひぬ/小池光「ジャンタ・オンジラ」

人間としてだめだからだめなんだ 歌集を閉ぢてわがひとりごつ/小池光「ジャンタ・オンジラ」



ゴミ箱をかかへて爪をきることも生の大切ていねいにきる/桑原正紀「時のめぐり」

→やっぱみんなゴミ箱抱えるものなのかなあ。自分や家族以外がそうやってるの見たことないから、他人がそうしているのが変な感じがする。
漢字にできそうなところをけっこう平仮名にひらいている。
日常の些細なことを大切にしている、そういう生きる姿勢を見ればよいという歌でしょう。



「つづく」といふ文字の出てくるタイミング絶妙にしてながく尾をひく/桑原正紀「時のめぐり」

この世での意識途切るる寸前の脳裏に「つづく」と浮かばばいかに/(同)

→「いかに」って言われても困るよねえ。拍子抜けしそうだなあ。この世編が終わってあの世編が始まるとでもいうのか。


ポケツトを裏がへしたやうな明るさに裏方の喜びを知る人たちは/永田和宏
→おもしろい上の句だなと思って。ポケットはいつも内側で暗いから、たまに明るみに出されると眩しいだろうね。裏方とポケットが重ねられている。
こうしてみると永田さんは毎日無茶苦茶忙しいんだなあと思う。見りゃわかるような感想だけども。
「塔新人賞の選歌」って書いてあってそわそわしてしまった。



篠さんの連載がいいなあ。毎回は読めないんで、まとまって本になってほしい。



「特集 次代を担う注目の新星たち」であります。
もっと話題になるかと思ったら、オレの見る範囲ではそうでもない感じです。知らない方が多くて、おもしろく読みました。

しみじみと二人(ふたり)泣くべく椅子の上の青き蜥蜴をはねのけにけり/北原白秋『桐の花』

「新人に求めるもの」を、なるほどそれは持ってないなあと思いながら読んだ。
難題ばかりだ。険しい。斉藤斎藤さんは「かしこくて生意気な」新人にむけて書いているが、そこに到達するだけでも大変だと思う。


人はみな母国語もちて生きて死ぬ ちらちらと灯は夜空を航(ゆ)きて/天野匠「幽棲」
→夜空をゆく灯というのが生きて死ぬ人と重なるのでしょう。灯のちらちらというのが人でいうところの言葉のようでもあります。ちらちらの弱々しさがはかなくていいなあと思いました。

下の句で動きがつく歌が多いようです。一首目の「逃走」、二首目の「七味ひとふり」、三首目の「航(ゆ)きて」、四首目「白梅ひらく」、七首目の「通過す」。なるほど、うまくいきやすい作り方かもしれません。


水平線つまびけば鳴るといふ海を見るため昏き階(きざはし)のぼる/飯田彩乃「雨があがる」
→水平線が弦楽器の弦のようであります。どんな音で鳴るのでしょうね。そんなスケールの大きなことがらに対しての「昏き階のぼる」。
大と小の関係なのだと思います。華道で大きい派手な花と小さい地味な花がひとつの花瓶におさまるような。
また四首目も、ものすごく大きいものを手中にする歌でありまして、こういう歌に魅力を感じました。


ばらばらにみな帰宅せり玄関の薄暗がりに傘はよりそふ/岩崎佑太「砂時計」
→薄暗がりの中の傘にもうひとつの家族を見ています。

わかりやすいといえばわかりやすいんですが、やや親切すぎるのが気になるところです。この歌ならば「ばらばら」と「よりそふ」。二首目の「寡黙」と「雪」、五首目の「白票」と「きりたんぽ」。


カフェーには老嬢の声ひびきたり 願えば叶うと申しますわね/遠藤知恵子「かたち」
→これ好きだなあ。「ますわね」にまるで言質をとったかのような響きがあります。「ひびきたり」に声の大きさがあらわれています。この力によって自分で願いを叶えて来たんだろうなあ。


大里真弓さんの「菩提樹」は、子供がかわいくてしょうがないという歌なんでしょう。写真にもそれがあらわれています。こういう歌にはオレは冷ややかなんですが、ママさんたちには共感されるかもしれませんね。


大平千賀さんの歌はわかりません。遠すぎると思いました。岩崎さんのところでやや近いという内容のことを書きましたが、こちらは遠すぎます。
木下龍也さんの、二通りに読める歌が面白かったです。ですが表記が特殊なのでここに引用するのはためらわれます。
引用をためらう歌といえば、鈴木ちはねさんの長いルビの歌がとてもおもしろかったです。消えてゆく方角がリアリティを出していて。



イヤホンをなくした耳を両の手に塞げば低し血流の音/工藤生琴「血流の音」
→音楽を聴くイヤホンのことから、生々しい血流の音に移ります。
日常的なことからそうじゃないことに転じる歌が見られます。二、三、四首目もそういう歌と読みました。三首目は順序が逆ですが。


つまってもあふれ出してもひとまずは呑まねばならぬ排水口は/佐藤華保理「しずくが落ちる」
→排水口の立場に立ってみたところがいいなあと。


語順入れかえれば通る文章のごときこころを持て余しおり/辻聡之「羨望の角度」
→この歌自体がどこかぎくしゃくしているのは、偶然ではないのでしょう。
語順をいれかえて正しくする問題が英語によく出てきますね。オレの学生のころの記憶のひとつです。そんなわけで、若い人の心という感じがいたします。


何ひとつ生み出さぬまま終える日にかたくなに来る夜を憎めり/戸舘大朗「あいまいな夜」
→オカルトっぽい歌もいくつかあるんですが、こっちがよかったです。共感はしたんですが「かたくなに来る」はちょっと厳しいかな。かたくなっていうと動かないようなイメージなので。


乃上あつこさんの「曜日の記憶」は写真に目を奪われるんだけど、申し訳ないけど短歌はいただけません。一字あけの同じ部分での多用のこととか、上の句と下の句につながりが見られないこととかもあるし、意味が読み取れません。
思わせ振りであろうとする作歌態度もどうかと思います。そうでなくても短歌は多様な読みを招きやすいのです。

一首目の「ては」は誤用ではないでしょうか。これでは月が空を見上げていることになります。「答えもせずに」とは? 悩ましい気持ちで月を見上げたが答えは見つからない、という内容の歌でしょうけど、表現を磨く余地がおおいにあるでしょう。
三首目「水ならぬ水」とは?(涙だろうけど、手がかりが足りない) 五首目の「輪郭」はなんの輪郭? 六首目の「それ」とは? 何が何を「すくい上げてく」のか?
ロボットが言葉をランダムにくっつけてつくった短歌みたいだという印象をもちました。字余り字足らずの皆無であることと助詞の省略にそれを感じます。句割れ句またがりも非常に少ないでしょう。


春はこの町のひと部屋ひと部屋に上がり込み 菜の花の和へ物/堀まり慧「ワルツ」


投票箱の暗きへ落とす一票がいつか誰かに降らす輸送機/屋良健一郎「Twitterの空」

→星新一の「おーい、でてこい」みたいです。投票用紙が輸送機に変わるというのは幻想のようだが、現実の問題なのでしょう。飛ばすのではなく「降らす」。墜落しそう。
この特集おわり。


古谷智子さんの片山廣子ノートでは、佐佐木信綱が二十五歳のころからかなり活躍していたという話が印象に残りました。


掘る埋めるほりかへす使ひかつてのいいスコップですおわけします/平井弘「院外」
→なんとなく死体でも埋めるような気がしてしまいます。


飲食(おんじき)のひとびと脚を失へり 花があふるる花瓶のやうに/水原紫苑『びあんか』


今野寿美さんの「歌ことば一〇〇」が最終回。これも勉強になるページだったけど、数えるほどしか読む機会がなかったな。毎月総合誌をいくつも読むのはしんどいもので。
「まにまに」が「ままに」の意味と知った。


はるばると来て教室の門(もん)を入る我の心はへりくだるなり/斎藤茂吉


けふ貼りし切手のなかのサフランが夢の中にてひかりつつ散る/木下こう「真昼の裏側」

→切手の夢を見たということでしょうか。それだけでも珍しいことだが、ひかりつつ散っているのが神秘的。切手のなかにとじこめられるのは永久の命をもつことのようでもありますが、それが散ることに強いものを感じます。


小節の区切りのごとく鐘を打ちおもはぬ大き音にうろたふ/平賀冨美子「氷川丸まで」


今日の我は何なのか 猫がけんめいに墓石の間を駈けてわれにくる/佐佐木幸綱「俺は何もの?」



書評のコーナーがあるけど、本のタイトルよりも文章のタイトルが大きいのは紛らわしくてよくない。



以上。んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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