「塔」2015年4月号を読む  ~ざらざらの異界、ほか

塔。2015年4月号


月集から。

忘れぬと言ひつつ忘れてゆくひとをあはれみにつつ降る夜の雨/真中朋久


共有したきことにあらねど洩らしたるいささか 徹底的に否まれつ/真中朋久

→こういう、具体の出てこない歌がオレは好きで真似したくなる。
洩らすのは、ちょっとは共有したかったんじゃないかと思いたくなる。


寿命とは ひかりの充ちる朝われに両手でおおう顔のあること/江戸雪


卒論をリュックに背負ひ有り金持ち線路に沿ひて歩くと娘(こ)は発つ/亀谷たま江

→阪神大震災をふりかえる「二十年」という一連から。印象にのこる一連だった。
この歌にはたくましさがあらわれている。


いくらかは身の丈縮むと確かめる柱の疵に背伸びなどして/栗山繁
→子どもの身長がどれだけ伸びたのかを記録するのが柱のキズなわけで、縮んでいるのを確かめている逆転がおもしろい。


いとけなき哀しみなれば受け入れて塔事典開き没年書けり/栗山繁
→塔事典の使い方の一例。受け入れることが歴史をつくる。
オレは図書館で、同じような書き込みを見たことがある。音楽事典に武満徹の没年が鉛筆で書き込まれていた。


牛タンがバケツいっぱい食べたいよ昨日言いいし椅子の冷えおり/なみの亜子
→こういうの聞くとすぐ「芋粥」を思い出す。バケツというところが、量ばかり多くて美味しくなさそうで。
下の句はずいぶんIの音が多い。食べようとする口の形ではない。
椅子とともに願望も冷えただろう。



作品1、花山欄

犬として生れしものが乗用車後部座席に鼻を鳴らしぬ/紺屋四郎
→ペットに、それ以外のなにかではないかと違和を感じることがある。たまたま犬として生まれたのであって、別な場合もあり得たのではないか。
そこから場所や動きの具体にうつる。犬は犬らしくしていてなんのおかしな様子もない。


夕やけを左右に分けて病院のガラス戸開ける病む犬を抱き/林田幸子


電車から見る風景のさみしきは密集する家密集する墓/北神照美

→生活していても、亡くなっても、肩を寄せあわずにはいられない。そこに人のさみしさがある。


栗木欄はとばします。今度誌上でやります。



作品2、真中欄

くだらない動画を見ている子の顔はくだらん ピキピキ冬風が鳴る/宇梶晶子
→くだらない動画はわかるが、くだらない顔というのもあるんだね。ピキピキしているのは親である主体の心境かな。


庭先にボール一個が飛び込み来走り去る影中腰のまま/矢澤麻子
→うわーなつかしい。あったよこういうこと。人の家にボールが入って、取りにいくの。たしかに中腰になる。なんのための中腰なのかわからんけど。
影が中腰というのがいいな。



特別作品から。

掃除機をぐるんとかけて終了す炊飯器でつくるケーキ講座/山下裕美「輪ゴムの理由」
→妙に具体的なのがおもしろいんだな。この歌では「炊飯器でつくるケーキ講座」が。
最初の「平皿にちくわの天ぷら」なんかもこまかい。



作品2、永田欄

生きて居る内に理解が出来ようかまたも場面はオフサイドという/米澤義道
→最近は画面をスローにしてオフサイドラインを表示したりしてわかりやすくなっているが、それでもわからないひとはわからないだろう。
この方にとっては一生のうちに理解できるかどうかという難解なものなのだ。



作品2、前田欄

子や孫ら戻りて後の畳の上にハートの4のトランプのあり/赤田文女



作品2、江戸欄

金が要る穴の中から声がしていくらと問えばあるだけと言う/山名聡美
→これ、こわいというか気味わるかった。前後の歌を見ても手がかりはない。この穴とはなんなのか、声の主はなんなのか。


セレモニーから解き放たれて二次会はカラオケ・ブック膝から膝へ/中村英俊
→カラオケの曲目の書かれた本ってたしかに膝に置くことがあるなあ。よく見ているなあ。セレモニーの堅苦しさと、膝に本を置く気安さ。



作品2、永田淳選歌欄

蚊帳の如くネットが囲むテニス場照明の下ラリーが続く/杉山太郎
→「蚊帳の如く」がよく効いている。まるでテニスのラリーが、蚊帳の内側で蚊が飛び回るようだ。


ポスターをどこから見ても目の合はず向井理は誰を見てゐる/広瀬明子
→見る位置や角度を変えて目を合わせようとしたのだろう。

探偵の広告デヴィ・スカルノと目を合わせてる夜の電車で/相原かろ(2015年1月号)

という歌を選歌欄評でとりあげたことがあるけど、目の合う有名人と合わない有名人がいるなあ。


走り去る電車の塗装面に映る 直立しつつ揺さぶらるる吾/太田愛


チャンネルとチャンネルの間にざらざらの異界ありけり怖れておりき/小川ちとせ

→テレビの砂嵐のことと読んだけど、ラジオの場合もそうかもしれないね。ざらざらの世界、なにか浮かび上がりそうでこわいものだ。
今のテレビなりラジオって、勝手にチャンネルを合わせてくれたりするから、砂嵐を見る機会は減っているような気がする。



歌集評

頑張らうと言はれがんばつてみますと他人のやうなわがこゑを聞く/落合けい子『赫き花』



作品2、小林欄

逆さまに身を折り曲げて浴槽の底を洗へりわれ暮らしをり/丸山順司


ああ遂に何処からも来ずカレンダーが 壁のひと隅が白々とある/田中美樹

→うちも貰い物のカレンダー使ってて、自分では買わないなあ。「ああ遂に」が大げさでおもしろい。



若葉集


小春日の日曜の午後ケイタイの着信音も穏やかにして/坂下俊郎
伯母さんの家が燃えてる燃えてると従妹が叫ぶ何度も叫ぶ/(同)


全焼の焼け跡見つつ悲しみはさほどに湧かず母が無事なれば/坂下俊郎
延焼のなくて良かりきそれのみを母は逢う人ごとに言いたり/(同)

→火事をあつかった十首。
二首ずつ引いた。隣り合う歌同士がコントラストをつくっている点に注目した。おだやかな歌と叫びの歌。母が無事でよかったという歌と、延焼のなくて良かったという歌。


心臓の鼓動をたしかめゐし女医の真似してみたり鍋に手を触れ/越智ひとみ


癒ゆるなき人も着たらむ病衣なれどわれは癒ゆるために今着る/多田眞理子




選歌欄評から一ヶ所。

湯につかり「ありのままで」と歌う時あきらめに似る感情の湧く/新川克之
という歌に対して塚本理加さんが「きっとそっと口ずさんでみたのだろう。大声で歌い上げるときっとまた違う力が湧いてくるはず」と言ってるのがおもしろかった。そっと歌いたくなる心境もあるだろう。
しかしまあだんだん古くなってきた歌だね。こういうのは賞味期限がはやい。


塔に工藤さんが増えそうなのが気になっている。


そんなところで今月の塔をおわります。



オレが塔に発表した歌はこちらにまとまっています。
http://matome.naver.jp/m/odai/2138733227024647201
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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