「めためたドロップスU」を読む  ~愛だけが通貨の国、ほか

「めためたドロップスU」を読みました。「めためたドロップス」の二冊目ということです。
メンバーは、小川千世・じゃこ・ショージサキ・浪江まき子・奈良絵里子・まひろ・山田水玉・ゆいこの8人。1983-1992年生まれの女性たちによる短歌連作が中心で、そのほかエッセイ、詩など盛りだくさん。48ページ500円。

どこをひらいてもカラーで、大変おしゃれな本であります。付録にデザインに詩にあとがきに、どれもに気持ちの入った本であります。
そこから、オレはまったくいつも通りに短歌だけを抜き出して何か言おうということです。



骨格を褒めあうOL 鳩の群れ 貨物列車の中身は不明/ゆいこ「明日の町」
3つのものが出てきています。三段オチとか、ホップステップジャンプという言葉があって、こういうときは3つめでいかに飛躍するか(しないか)が注目されます。

ひとつめふたつめが表面的といいますか何気ない風景であるのに対して、みっつめでこの観察者から見えない領域へワープしています。
でもほんとにひとつめふたつめが表面的かというと、OLの話題はお互い見えてないはずの「骨格」だったりして、そういうところを面白いと思いました。

連作全体では甘いものがよくでてきます。ホットケーキにアイス、ぶどうジュース、チョコミントアイス、シナモンロール、パイン。女の子の歌って感じがします。



誰の歯か分からない歯が落ちていて拾ってみたいと思ったりもした/ショージサキ「ガール イーツ ガール」
→「誰」ってことは、動物ではなく人間の歯のように読めます。
歯が落ちているって、けっこう異様じゃないですかね。レアです。ずっと知らない人の口の中にあったものですから、人の大切なものでもあり、落ちているとなんかこわいです。

字数を考えると「思ったりもした」の「も」が余分に見えたりもしますが、ここがポイントと見ました。
拾ってみたいということ以外の思いを感じさせるからです。拾ってみたいと思ったりもしたし、そうじゃないことも思った。「そうじゃないこと」の存在がより強く感じられる、幅のでる「も」です。

その前の歌では電線をカッターで切ることを考えていて、あやうい流れがあります。
恋愛のことやそれに関係ありそうな痛みの歌が中心の一連、と見ました。



夜の底 生きるしかなく何をどう言われようとも言ったとしても/まひろ「おおいなる嘘」
→人間関係が苦しそうな一連でした。甘いものや食べ物もそうですが、具体的な「モノ」が少ない連作です。人との関係で苦しんでいるようですが、相手についての情報もない。季節も場所もほぼありません。
ふりかかる苦しみや、不自由さの歌、または自分を守ろうとしている歌がならびます。

挙げた一首はとくに苦しさが強く出ていると思いました。決意のようでもありますが、逃げ場のなさも感じます。真夜中に深く悩んでいます。



あたたかい何かを食べて寝なさいと声だけの母がわたしをなでる/奈良絵里子「冬の引っ越し」
→何回か書いているけど、「短歌は四句がポイント」とNHK短歌テキストで見てからよく思い出すようになったんです。この歌の「声だけの母」は大事なところだと思います。
電話だろうなと読めばわかるんですが、そうじゃない可能性が残され、声以外はここにないことが強調されます。
「なでる」もまたポイントですね。声だけなんだけど、それが自分をなでているととらえているのです。



アメンボの足持ってます困ってる人に差し出す心づもりで/じゃこ「合法ドキュメンタリー」
→椎名林檎っぽいタイトルだなと思いつつ。
アメンボの足っていうのは、水上で沈まず溺れないので、いい足です。溺れてる人には助かるアイテム……と意味的には考えられます。
あんまり現実的に考えない方がいいでしょうねこういうのは。


1人中1人がわたしのしあわせを祈っています 祈りませんか/じゃこ「合法ドキュメンタリー」
→「3人中1人がこのレビューを参考になったと言っています」みたいな感じです。
「1人中1人」はいい数字ですね。たった一人の評価でしかないけど、100パーセントでもあります。信用していいのかわからないところです。「祈りませんか」のいかがわしさもいい感じです。

だいたいはありもしないことばかりの連作なんですが、ありえなさも含めて楽しいです。
こういう時にオレが必ず思い出すのが「この魚、釣った時から刺身だったんだよ」というようなオッサンの冗談と、そういう笑いについて激しく拒絶している松本人志の姿です。

テレビで松本人志が言ってたんですよ。「『この魚、釣った時から刺身だったんだよ』~?? 何が面白いんじゃい!!!!」って。
なんかテレビ見てるとどうでもいいことがすごく焼き付くことがあって、これもそれなんです。前後の流れとかなくてそこだけ覚えてるのです。オレはそういう種類の笑いはけっこう好きなんです。なんのための嘘なのかわかんないような、一瞬でばれる、子供だまし感満載の嘘。

つまり、アメンボの足を持ってるのもそうですが、屋上にサンタクロースを飼ってるとか、幽霊をひっこぬいたとか、みんなそういう類いの世にも楽しいデタラメだとオレは見ているのです。



試験のために覚えろと言う 死ぬときは地獄に堕ちるのだろうと思う/浪江まき子「嘘と英断」
→たとえば歴史上の人物の功績が、試験の1点や2点のためだけに記憶される。ほかの教科でもそうでしょう。学問の意味を考えさせます。
「地獄に堕ちる」という強い表現が、テストのためにいろんなことを暗記してきたオレのほうへも向いてきます。



ひと息にコカコーラ飲めばみぞおちは昇降口のような喧騒/浪江まき子「嘘と英断」
→ひと息でコカコーラを飲むという行動にしても、昇降口の喧騒にしても、忘れていたものを呼び起こされるようでなんとも味があります。



「愛だけが通貨の国がありました。二人はとても飢えていました。」/山田水玉「ばら ばら いばら」
→物語の書き出し部分のようです。続きが気になります。

鍵かっこもそうですが、大きい空白やパーレンや一字あけの多用やユニークなオノマトペなど、そういう種類の工夫が多いです。



正直に生きてゆきたい私に死ねと言ってるような階段/小川千世「たとえば真っ赤な虹をみるとか」
→陶芸家の歌とで迷いました。
「死ね」は直接的すぎるかもしれませんが、階段にそういう感覚をもつというのが特殊かなあと思ってこれにしました。

ゆいこさんのところで甘いものがよく出てくることを書きましたが、ここでも食べ物飲み物がよくでてきます。ヨーロピアンシュガーコーンの歌は二年前に歌会で見たときからよく覚えています。



以上です。んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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