FC2ブログ

宗形光『スマトラトラ』  ~イクラにも似る、ほか

歌集読む 198

宗形光『スマトラトラ』
本阿弥書店。2019年3月。

塔短歌会所属の歌人の第一歌集。帯には
ホッチキスの針を外してコピーして針穴にまたホチキスをする
という歌が引かれている。歌集名は
スマトラ島に棲むトラなればその和名スマトラトラと命名されぬ
から。この二首から作風がうかがい知れる。



送信をすればたちまち返信を求める自分に変身したり
/宗形光『スマトラトラ』

→たしかにメールを送ったとたんに待つ側に気持ちが切り替わる。
返信と変身。スマトラトラの歌もそうだが、ダジャレっぽい方向の歌が見られる。

編年体ということだが、最初に丸をつけた歌は290ページある歌集の60ページ。ここから増えてくる。



ベンチにて君に歌意など説きおれば老人が来て座りたしと言う
/宗形光『スマトラトラ』



公園のトイレの壁は?がれおり「死ぬしかない」と隅に刻まる
/宗形光『スマトラトラ』



海へ走る座席の横からじゃがりこの欠片(かけら)がひとつ差し出され来る
/宗形光『スマトラトラ』

→去年新幹線に乗ったときにじゃがりこを食べたという経験をしたので反応してしまう。
車窓から海への距離感と、隣からのじゃがりこの近さがうまい具合だ。



参拝の列の中にて手鏡を持ちてまぶたを染める人あり
/宗形光『スマトラトラ』



おみくじを結わえんとするその枝の横に結ばるる「大凶」の文字
/宗形光『スマトラトラ』



LEDの信号の赤を見つめれば皿に盛らるるイクラにも似る
/宗形光『スマトラトラ』

→イクラは好きだけどそんなこと考えたこともなかった。言われてみるとそうだなあ。
後になって、この歌を思い出しながら信号を見上げたりもした。この歌集でもっとも記憶にのこった歌。



炎なのに寒さに震えているようにほそぼそ灯る臘燭の火は
/宗形光『スマトラトラ』

→「炎なのに」がちょっといい。炎は熱いんだから寒がらないもんでしょ、炎は炎らしく燃えるもんだ、……ってことなのか。



中盤にきて強い既視感をおぼえたのだが、ありがちな発想だからなのか、それとも実際に「塔」で読んだ歌をまた読んでいるからなのか、わからなかった。
後者だとしても、読むたびにあらたな味わいが感じられるような歌が理想的だ。




モルヒネのような呼び名のネモフィラを覚えられずに到着したり
/宗形光『スマトラトラ』

→あるなあ。似た感じの言葉は知っているんだけど、それにさえぎられて、元のことばが覚えられない現象。



性格がどこか似ている メールなら「こんにちわ」と書き始むる人
/宗形光『スマトラトラ』



盛り蕎麦を食べてぴん札差し出せば濡れた百円三枚もどる
/宗形光『スマトラトラ』

→700円だが、それ以上に損した気分になったことだろう。



ありぬべし分母と分子 柿ピーのPの割合案じて食す
/宗形光『スマトラトラ』

→Pって書くとちょっと数学的だな。柿ピーのピーにかけている。




そんな感じです。
そのまんまで味がないなあと感じる歌が多くて、ときどき面白い歌がある。言葉への気づきの歌が多いが、
街を走るアパマンショップの宣伝カー アンパンマンと読み違えたり
みたいな歌が一首あるだけでだいぶ嫌になってしまう。それがいくつもある。
むずかしくなくて気楽に読めるのがこの歌集の長所。


この本おわり。
んじゃまた。



▼▼▼



【こっちもおすすめ】

noteのほうでは、ブログでは読めない内容の記事をたくさんアップしています。





依頼こなし日記 2019.5/6-5/16  ~日記とカレンダー
https://t.co/uH0Qg7bwZp

依頼こなし日記 2019.5/27-6/3  ~ふたつの校正
https://t.co/4HS4nocxl2



2018年12月のオレの短歌とその余談  ~鋭く突いた怪作です、ほか
https://t.co/1YynqfTbGS

2019年1月のオレの短歌とその余談  ~「おもらしクン」「大きなSNSの下で」ほか
https://t.co/XQaZ8NGI0y

2019年2月のオレの短歌とその余談  ~文体そのものが行為になり得ている
https://t.co/Y6OCQ0tyUY





などなど、
500円ですべての記事(約120記事)が読めます。よろしければどうぞ。



プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR