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穂村弘『水中翼船炎上中』を読む  ~席替えが理解できずに、ほか


穂村弘さんの歌集『水中翼船炎上中』を読んだ。講談社。2018年5月。
https://t.co/jNT7epgPKM

なかなか読めなかった。あの穂村さんだし、なんと17年ぶりだというしっていうので、かまえてしまって。
でも、あんまり考えないことにした。読みたいように読んで、自分がおもしろいと思った歌をひいて、なんか書きたくなったらそれを書くという、それでいくことにした。



オルゴールが曲の途中で終わってもかまわないのだむしろ普通/穂村弘『水中翼船炎上中』
→四句は字数合わせみたいな「のだ」で七音にしてあって、でも結句は字足らず。この字足らずが、途中で終わった感なんだね。
たしかに、曲が途中で終わるのが普通だなんて、ヘンだねえ。「なんで途中で終わるんだよ」ってきかれて答えてるみたい。



なんだろうときどきこれがやってくる互いの干支をたずねる時間/穂村弘『水中翼船炎上中』
→なんだろうねえ。たしかにあるねえ。特にそれで何がどうなるってこともないよね。干支の動物が性格をあらわす、とかもそんなにないし。そんなこんなを「これ」の二文字にまとめている。



なんとなく次が最後の一枚のティッシュが箱の口から出てる

もうそろそろ目覚まし時計が鳴りそうな空気のなかで飲んでいる水
/穂村弘『水中翼船炎上中』

→離れたところにある歌だけど、共通したところがあるから二つまとめてみた。
予感の歌。わかんないけどそんな気がするっていう歌。
目覚まし時計が空気のなかにまるで含まれていて、水にも影響してるみたい。水がふるえだすところをイメージした。



席替えが理解できずに泣きながらおんなじ席に座っています/穂村弘『水中翼船炎上中』
→他のみんなは席替えを分かってるだろうね。みんなして机を一斉に動かしてガタガタしている。いまのこの子の席に移ろうとしてるほかの子もいて、待ってるんでしょう。先生が移りましょうと言ってくる。ここにいちゃいけない、あっちですよ。つらいだろうなあ。なんかわかる。悲しくなってくる。

ほかの席に移るのが楽しみって子もいれば、おんなじところにいたい子もいるでしょう。席替えについては説明してたはずだし、誰がどこへ移るか決めるための手続きも経ているはずなんだけど。ぼんやりしてたのかなあ。

こういう、変化についていけない子っていたし、オレもそうだった気がする。

泣いてても、このあと絶対動かされるじゃん。こういうことを経て、ものを学んでいくんだな。
そういえば、机を動かす席替えと、机の中身だけ移す席替えがあったなあ。



贋者の鉄人28号を千切れ鉄人28号/穂村弘『水中翼船炎上中』
→「歌壇」の10月号で、佐佐木定綱さんが穂村さんにインタビューしてたんだけど、どれだけ短く(文字数を少なく)作れるかやってみた歌だと、たしか語っていた。

「千切れ」てるみたいに短い。倒せでもやっつけろでもない。「千切れ」ってなかなか言わない命令だ。
なにもわざわざ千切らなくても勝てるでしょうに。ちぎるってつまり、上半身と下半身とか、あるいは首と胴体とかを力まかせに二つにしちゃうんでしょう。「千切れ」には幼さと残酷さが同時にある。



部屋中に煌めきながら散っているぬいぐるみたちの冬の通信簿/穂村弘『水中翼船炎上中』
→「千切る」のつぎは「散っている」歌。ほかに「ちらばる」歌も多いんですよ。と思って数えたら、ちらばる歌は7首。数えたら、多いか微妙な数になった。
ぬいぐるみに通信簿。こういう遊びは、おままごと的にありそう。

勉強もなにもしてないのに通信簿はある。通信簿があるということは、成績のいいぬいぐるみも悪いぬいぐるみもあるわけで。何もしてない/できないのに上下をつけられる彼らが悲しくなる。

でも部屋中にあるってことは、たくさん書いたんだね。がんばって書いた。書いている時には頭の中に、それぞれのぬいぐるみの普段の行いや学校生活があるのだろう。
ぬいぐるみが多いほど一人遊びも多いみたいで、なんかこういうのもなつかしくて悲しくなるなあ。

ちがうことを二つ書いたけど、「ぬいぐるみは何もできない」っていうのは大人の見方だったな。一人遊びの子からすれば、居てくれるだけでも大事なともだちだし遊び相手だから。



大晦日の炬燵布団へばばばっと切り損ねたるトランプの札/穂村弘『水中翼船炎上中』
→また散らばってる系の歌だ。いろんなものがよく散ってる。効果がある。
オレもこういうことしたなあ。テレビゲームがない頃はカードゲームやボードゲームをよくやった。暖かいと外に行って遊べと言われる。



登校日まちがえてきた無人教室には雲の声ひびくのみ/穂村弘『水中翼船炎上中』
→無人の教室だから「無人教室」なんだけど、いい言葉だなあ。「雲の声ひびくのみ」すごい。



さみしくてたまらぬ春の路上にはやきとりのたれこぼれていたり/穂村弘『水中翼船炎上中』





おトイレのドアを叩いたことがないわたしは冷酷なひとりっこ

どうしても芯の出し方がわからないペンを戻して売り場を去りぬ
/穂村弘『水中翼船炎上中』

→ちょっときいてみる、たずねてみるということが出来ない。オレもそうなので、そうだそうだと読んだ。
「冷酷」といわれると、そうだそうだと上げていた手が自然に下がる。「去りぬ」にわびしいものを感じた。遠のいてゆく背中がある。



冷えピタを近づけてゆく寝息から考えられるおでこの位置に/穂村弘『水中翼船炎上中』
→寝ているひとにそっと毛布をかけてあげる……なんて場面があるけど、ここでは寝ている人に冷えピタを貼ろうとしている。やさしいけど、思わぬ場所に冷えピタが貼られてしまいそうでハラハラする。起こしちゃうよ!



「この猫は毒があるから気をつけて」と猫は喋った自分のことを/穂村弘『水中翼船炎上中』
→猫に毒はないんで、これはほんとの猫のことじゃないんだなと読むわけですね。

SNSで猫のアイコンの性格悪い人が「毒吐き注意」みたいなことをプロフィールに書く。いろんな歪みが含まれていそうだなあ。
人なのに猫なのがひとつめ。「毒」という言い方がふたつめ。自分で「気をつけて」というのがみっつめ。
歪みっていうか、責任回避がありそうね。

というわけで、この本おわり。





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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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