「塔」2014年11月号を読む【後編】  ~怖いおじさん百人怒る、ほか

作品2、池本欄

何気なくうしろを見れば遠景のスカイツリーは思想のごとし/磯部葉子
→高い建物といったらバベルの塔ですね。あれには思想がありましたね。何気なくふりかえる様子で、ソドムの町をふりかえる旧約聖書の一場面(創世記19章)を思い出しました。


新しき思想来るごと橋越えて祭り太鼓の音近づきぬ/栗木京子
といった歌も思い出します。これは塔の去年の二月号の歌。こっちの思想は近づいてきます。


賜いたるジャムの瓶の蓋取れぬ苦くしょっぱいジャムにやあらん/小川玲
→この「取れぬ」は取れないんでしょうね。有名な寓話みたいですが、これは「ブドウ」のジャムかもしれませんね。


割り勘でアイスコーヒー飲み別れたり疎遠となりし遠くの叔父と/川上とよ
→「ここは自分が払うよ」とどちらからも言い出さない、そういう関係なんですね。「割り勘」で関係の温度がうかがわれます。コーヒーがアイスであることも。


何故と問ふひとのなく取り立てて言ふことならずナメコを好む/木村茂一


封筒の表に大きく書きて後〈ひみつのてがみ〉を子に渡したり/高橋武司

→まるで秘密にはなっていないんですが、子供はワクワクするでしょうね。いいお父さんです。


数万の人らがひとつ球を追ひアーだのウーだのおそろしきこと/吉田京子


とこしへの謎のごとくに蜆汁のひとつのしじみ殻を閉ぢゐる/篠野京




作品2、花山欄

村の名が消え地区となりしふるさとの海に首折るクレーン車二つ/中村英俊


もう今年いっぱいと言う父の手をはじめてなでる なでるしかなく/佐原亜子


無秩序に這いまわる蟻が群れてきて形をなしたら狂気のはじまり/乙部真実

→さっきの「アーだのウーだのおそろしきこと」の歌にも通じる、集団の力への恐れがあります。


「腰抜け」の汚名に堪へることならむ不戦の誓ひ守るといふこと/藤原學
→オレは別に、とくべつそういった反戦の歌に肩入れしてるつもりはないんです。
日常にだってそういう場面はあります。ものごとには良い部分悪い部分はセットになっていて、悪い部分を拡大して見ると全体が悪いものに見えてきます。


自販機の裏に伸び入るつるくさの引きずり出しても引きずり出しても/山梨寿子


ひと言を言つてしまへり交差点の信号なべて赤い間に/吉澤ゆう子

→ありますね。ほんの何秒かのあいだ。
なにか決定的なショックを与える、とりかえしのつかない一言かもしれませんね。信号の赤もそれは止められません。赤自体が危険な色であります。



作品2、吉川欄

鳥の影よぎりてゆけば一瞬の切り傷のごとし夜明けの窓に/島田瞳


ガラケーの意味聞かされしときに似て今年の冬もしづかなりけり/中瀬真典

→オレがその言葉の意味を知ったのはスマホに変えたくてネットで調べているときだったな。知っても全然ピンとこなかった。なんでもないようなものにそんなややこしい名前があるのが変な感じだ。いまでも納得はしてない。
でもこの作者はどう思ったんだろう。冬のしずかな感じとつながるものがあったのだろうか。


坊やほれあの人のやうになるのかと指さされたるわれの清掃/原田尚志
→「ほれ」に嘲るようなニュアンスがありそうだ。指さしちゃってるし。
清掃も立派な仕事だ。自分もやってたから言うんだけど。


傾いたまま走り出す夏の夜の市バスの灯り死の中の生/吉岡昌俊
→バスの傾いたままの走り、わかる。すべてに納得できなくてもやっていかなくちゃいけない人生のようでもある。結句がそこまでの内容と重複している。


子を愛せぬと言ひ来し母の無機質の語調耳朶にあり床に入りても/田邉ひろみ
→耳の中でなく耳たぶにあるのが個性的だ。外側からいつでも聞こえてきそうな感じだろうか。
子を愛するのは生き物らしい感情だ。


ブロック塀の上に乾さるる赤紐の運動靴は雨に打たれたり/宗形光
→衣類などを外でかわかしていると雨に降られるのは日常のあるあるの一つですね。
ここでは「赤紐」にふくらみがあります。ここから女性のイメージがでてきます。雨に打たれている女の子だとか。



作品2、三井欄

心塞ぐ新聞ニュースの片隅に「ジュウシマツの飼ひ方」ひつそりとある/豊島ゆきこ


四人のうち三人が居らぬこの家の窓を開くれば遠花火見ゆ/清原はるか

→四人とか三人とかは、自分がただ一人でいることを引き立てています。
花火は家族と一緒にみたかったものかもしれませんし、遠い花火それ自体が離れた場所にいる誰かのようでもあります。
しみじみとします。


ルパン三世みるなどをして過ごしおり六十九回目の原爆の日を/小林貴文
→八月が締切だったので戦争の歌は多かったんです。そこから工藤が選ぶのはこういう歌なんです。
ルパン三世の、戦争や原爆を思う気持ちからの遠さ。そしてそれを見ていること。


ロボットの老いは人より早くして三年五年が寿命となれり/土屋智弘


二円分足りずに戻る俺の歌つまらぬ歌が行ったり来たり/西之原正明


皮膚一枚の外側に居る君の手が私の背中を撫でる哀しい/さつきいつか

→皮膚の一枚にも二人の隔たりを感じている。



作品2、黒住欄

なんか今回は特に若手に厳しいような気がする。二首とか三首とか、あからさまに若い人の歌が少なくされている。


君はまだ映画のあとのくらやみで終らないエンドロールを見ている/上澄眠
→オレの注目のひとりの上澄さんも今回は三首と少ない。
君のことを見ている私はエンドロールを見ずに映画館をあとにしようとしている。この違いは映画のことばかりではなさそうだ。


ひと目盛りラジオの音量さげながら片耳よせて恋のうた聴く/大土手庸華
→小型ラジオ自体がちょっと古いアイテムだ。音量の調節が目盛りでなされることも。
そして動作がいい。人にあんまり聴かれないようにして聞き入っている。
イヤホンがあればする必要のない動作で、そのあたりも古い時代の香りがする。



宮地しもんさんの歌集評がある。良さそうだなあ。普段なにげなく読んでいる人の歌を、こうして厳選されたものを丁寧な評つきで読むのもいい。



若葉集から。

昨晩の別れ話のTシャツが洗濯物に変わるベランダ/大坂瑞貴


轟々と山が唸るよ台風で 怖いおじさん百人怒る/きら

→台風の音が、おじさんが怒っているように聞こえたと。
おじさんばかりが百人も集まって、揃いも揃って怒っている様子を想像すると愉快です。


「あの選手髭を剃ったら良いのにね」母独特のサッカー観戦/古賀光
→「独特」が言いすぎていますが、うちの母もそうなのでよくわかります。
政治家についてもそういう見方をするのです。だから「有権者がそんなんだから政治もダメなんだろ」と言ったことがあります。十年も前に。


真剣に生きているかと二度三度われを揺さぶる代打の素振り/坂下俊郎
→前後が野球観戦の歌なので、これは客席から見たネクストバッターズサークルにいる選手の様子でしょうか。
その素振りに、生き方を問うようなものを感じたと。力強いスイングなのですね。その後、その選手が打ったのかはわかりませんが。

この方の歌はほかにも面白いものがあり、連作としてもまとまっていました。これからの若葉集の、オレの注目の人になりそうです。



評のページでは、永田淳さんの一首評が歌のポイントをよく伝えていてよかったです。オレもうまく評ができるようになりたいので、良いと思ったものからは学びたいです。



オレの歌はこちらに載せています。
http://blog.livedoor.jp/mk7911/archives/52114450.html



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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