角川短歌2013年12月号を読む  ~男根の所有、ほか

角川短歌2013年12月号。




ぼそっとただいっぽんだけで立つ梅に言葉かけたき秋の夜なり/佐佐木幸綱「こおろぎ」

→というのが今回最初の丸ついた歌。「ぼそっ」がポイントかと思うが、小さい「っ」二つからK音を経て抜けてゆくところに流れがある。




わが船を追いくるかもめかもめかもめ 若きあり老いて汚れたるあり/佐佐木幸綱「こおろぎ」

→「かもめ達」「かもめら」などとしなくても反復することで複数いることを表現できる。
老いることとは汚れることなのか。
記号ではないほんとのカモメだな。見てるっていうのがわかる。



人ひとり厭う心に降り出でて夜更け虫の音消さぬ雨音/大下一真「いただき知らず」

→心に降ってる雨かと思っていたら、虫の音がでてくるからほんとの雨のようだ。
「ひとひとり」が弱い雨のオノマトペみたいだ、というのは読みすぎか。










特集「短歌のタネの見つけ方」。奥行きにしろ、てにをはにしろ、角川は特に「教える」タイプの特集の多い総合誌だ。
このなかでは時田則雄さんの「べさ」という語尾が印象に残る。









馬場あき子さんの連載
「日本の芸術論は型の芸術。型というものは誰がやっても同じなの。だのに違う。何が違うのかというと、その人が持っている教養、人格、人間性、そういうものが滲み出るのよ、型を通して。」










角川短歌賞受賞第一作を読んでいく。


見ることはすでに憧憬 ショベルカー、ショベルを赤き土こぼれたり/吉田隼人「小倫理学」

→ショベルカーの力強さへの憧憬であるのがわかる。土の「赤」は情熱や血を連想させる。
こぼれるというのは自分の器の大きさ、つまりこの場合、自分の限界を考えずにがむしゃらに実行したことの結果だ。



はたらいてゐないわたしが砂浜に承認されてながむる夕陽/吉田隼人「小倫理学」

→オレは長いことニートやったけど、それ以前から「自分がここにいていいのか?」という感情は強くあったように思う。つまり「承認」を求める気持ちだ。働いていなければなおさらそれは強まるだろう。詞書はその内面を言い当てている。
夕陽を見ている時ですら承認を意識している。

あと、「い」と「ゐ」が使い分けできる方なんだなあと思った。オレはそれできないんです。



エッセイ。タリウム少女のこと、オレは知らないというか、覚えていない。
妙に犯罪者に心を寄せてしまう、「畏怖とも嫉妬ともつかぬ複雑な感情をいだいて」いたことはオレにもあって、それがオレの場合は酒鬼薔薇事件だった。

「グルムグンシュ」を検索して日記を少しだけ読んだ。なるほど公開されている。詞書どおりの「人って案外簡単に騙されるものなんだと思った。」などの文章があるのを確認した。

そして吉田さんが武器を求めるように哲学へ向かったのがわかる。つまりこのエッセイは詞書に使われた二つのテキストについて書かれている。かつての自分にとって大切なものを詞書に使用したことがわかる。

そういう時期に何と出会うか、っていうのは大事だな。
オレは中島みゆきやロシア文学だったが、それは三十代になっても細く続いている。
哲学は「ソフィーの世界」から入ったがまもなく抜けてしまった。

内側に何かが渦巻いているが、それを表現するすべ、向ける場所を持ってないということがある。そういうのを若いと思う。若いというか、懐かしくいとおしく思う。

ちょっとウットリした書き方をしてしまった。共感したってことだ。実際はそんなに似てないのかもしれないけどね。人と人ってそう簡単には似ない印象がある。



伊波真人さんの「夢のあらすじ」
やっぱり「よう」が多い気がして数えてしまった。30首で8回「よう」が出てきた。何回だからどうというこではなくて、数えたくなるのが問題だ。


きのうからつけっぱなしの電灯が夜のほとりで朝を見ている/伊波真人「夢のあらすじ」

→夜から朝への移り変わりにはちょっとした情緒のようなものがあると思う。電灯にとっての朝とは、無化される時間、消えなければならない時間だ。それが近付いてくるのをじっと見ていると。


ツイートしたくなるほどではないが、深夜ラジオのあたりは懐かしく読んだ。
「0時過ぎ」「一時」「深夜ラジオのCM」「DJの「またどこかで」」と、時間帯の動きが丁寧だ。



CMで仕事のできるOLを演じてるのは売れない役者/伊波真人「夢のあらすじ」

→そんなことないんじゃないの。対比を面白がりたいんだろうけど。ただの決めつけだ。もうちょい具体的にすれば決めつけにならないかもしれない。伊波さんが誰のことを売れない役者だと言ってるのかを。



エッセイでは連作の作り方を書いてる。
フィクションとはいうけど、それはこの人にとってのフィクションであって、ほかの人にはフィクションじゃないかもしれないような、その程度のフィクションなんだね。

オレにはちょっとした発見や比喩ということ以上には見えない連作なんだが、こんなにストーリーや設定が考えられた結果なんだな。そしてどこか自信も見られる。

「いったい、海に行ったことがない人が描く海に誰が魅力を感じるだろう。」
だそうだ。反対しないが同意もしない。自分に魅力があるみたいな言い方がただむかつく。オレはこの人に魅力があると思っていない。合わないだけといえばそうなんでしょう。

大きな賞を取った方なのは事実だけど、選考委員四人のうち何人かが認めただけで、オレは認めてないからな。オレはこの人は引き出しも狭くて退屈な歌人だと思っているので、こんな自信たっぷりに言われても失笑しかない。いい歌もないわけではないけど、さほど可能性があるとも感じない。「よう」のことはすでに指摘したけど、凝り固まってマンネリ化してるように見える。評価する方にはこれが完成度に見えるのかな。
悪口みたいになっちゃったけど、ここはオレのブログなんでオレの偽らざる思いを書きました。







作品12首


何となく分かると言われ得心をせりこれ以上の答はあらず/千々和久幸「煩うなかれ」

→そうそう。それなんとなくわかる。



「洋服の青山」の青よりも濃き青見つからず連休終わる/染野太朗「ココナッツオイル」

→オレも連休中に洋服の青山通りかかった。あれはものすごく青いね。これ読んでから行ったけど、ものすごく青いね。








電子書籍の特別企画。オレは使わないが、どう見えるのかは興味あるので無料版だけは試してみたいと思った。



作品7首。なし。






渡英子さんの歌壇時評。「消費される時評」のくだりが良かった。
その時面白ければいいっていう考えがあっていいけどね。だがそればかりだと虚しくなるのもまた事実だ。







源実朝うんぬんの歌会の詠草がある。長くてちゃんとした名称を書く気にならない。
ジュニアの部とか見てると、中学生くらいから恋の歌が出てきて「ヒューヒュー!!」と冷やかしたくなる。



五十階に執務の静寂満ちをりて窓拭人ふたり下がりゆきたり/平尾浩一

→天位だけあり、いい歌。
「執務」「静寂」「窓拭人」と言葉が硬い。引き締まっている。
窓拭人ももちろん真面目に仕事してるんだが、外にいるし普通じゃない移動の仕方をしているし、日常から離れているようなかすかな違和、不思議さがある。
ふたつの日常が窓ひとつ隔てて、交わることなく通りすぎてゆく。
かすかに滑稽な気がしていたんだが、それは硬い言葉で「執務の静寂」とか言いながら窓の外ばかり見ているからかも。







最後はいつもの公募短歌館


男達みな男根を所有して競い合ってる世界陸上/菊間まさお

オレの歌はゲスかなと思っていたら、もっとすごいのが二つ隣にあって「負けた」と思った。それがこれ。

→でもまあ、普通に考えるよね。この人たち、みんな所有してるなあとか。今は使ってないだけで、しかるべきときには使うだろうなあとか。
そうでなくてもスポーツに男性美を見ることは普通にある。「所有」という熟語がいいな。



人間をいまだ殺めずそれのみが取り柄なれども書く欄は無し/島村直行

→履歴書かな。いろいろ経験してきたはずなのに、履歴書にそれを書くことができない、履歴書に書くことじゃない、ということがあるものだ。



あ、しまった。キリトリ線をはみ出した。ならばここから、僕ははばたく。/蒼井杏

→句読点ばっちり入れてきたなあ。
前向きっぽいけど、一種の開き直りとも読める。
寝ぐせ頭を指摘されると「これが最新の流行なんだよ! 」みたいに言うやつがたまにいる。



リカちゃんハウスのようなホームに仕舞われて美しかりしひとの老いゆく/森田小夜子

→リカちゃんハウスが小さい女の子を思わせるところが老いとの強い対比を作っている。
「仕舞われて」は老人をリカちゃん人形になぞらえている。老いることへの無念、ホームへの悪意もわずかに感じた。




最後にオレの歌。

女という文字そのものが足をくみ腕を広げて誘ってないか/工藤吉生
(香川ヒサ選、加藤治郎選 秀逸)

完全な球を目指して寝る猫の耳が少々はみ出している/工藤吉生
(水原紫苑選 佳作)

二人の方から秀逸をいただいたこと、三ヶ所に載ったのは初めて。


ではまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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