「塔」2013年8月号を読む【3】  ●作品2、若葉集、歌会記、ほか

歌集探訪から。

ひき割りの納豆買えば不機嫌になる夫の居てそんなに怒るな/後藤由紀恵『ねむい春』

→夫のことを夫のいないところで言ってるのかと思ったら最後に呼びかけている。結句のねじれとでも言えばいいのか。それが面白いです。






特別作品からひとつ。

キーボードを叩きていたり いつの間にチョコの欠片を口に入れしか/小圷光風「ある種の別れ」

→真剣にやってたんでしょうね。で、気がついたらチョコがくちのなかにあったと。
キーボード叩いてたら両手がふさがっているわけで、そのあたりも無意識の不思議さを強めていると思うのです。






作品2、山下洋選歌欄


磯野家はおろか野比家も野原家もすでに庶民と呼びがたきかな/益田克行



気分だけもちて生きゐるぺらぺらのこのうすつぺらを人生といふか/吉田京子


→「ぺらぺら」の重複がこの歌では非常に効果的だと思うのです。どんだけぺらぺらなんだと。
まるで人生を指でつまんでいるみたいな実感があります。



テーブルのおやつは必ず口にする長男である結婚しても/中山惠子



少年は手を投げ出して眠りをり吾より強きf(フォルテ)を生む手/吉澤ゆう子


→少年の少年らしい眠りを見ながらも、その手の持っている力強さを思っている。
親子なのかわかりませんが、二人とも楽器、おそらくピアノかなにかをやっているのでしょう。



マヨネーズをかけて食べたいやうな草北大構内の春に生ふると/田口朝子



ネクタイは柄の不思議よ団子虫みたいな奴がむらむら並ぶ/相原かろ


→初句の「は」の効果。むらむら、がおもしろく且つ適切です。

あの柄はなんなんでしょうね。顕微鏡をのぞいてるみたいな。よく見かけるということは、一定の支持があるのでしょうね。



五分後にアラームが鳴る夢を見た五分のばした眠りのなかで/萩原伸







つぎは「若葉集 入会一年目の会員欄」から。この欄だけ説明が丁寧。


美しき少女のくわえ煙草して我にみち問う東北なまり/菅谷藍

→大阪の方。
東北にもこんな人は滅多にいないというか、見たことないです。
しかし雰囲気ありますね。



偶然と偶然の狭間に必然はあると思いてひとり合点す/藤江ウインター公子



「やめました」一行のみのメールあり信号待ちにまた開き読む/落合優子



なんということもないことすら言えず今日も飛行機雲が残った/浅野大輝


→きっと、音が地上に聞こえないような、そんな空高く飛ぶ飛行機が残した雲でしょうね。
そこを通過した、横切った、そのひととすれちがった、その事実だけが残った。



地元のみ流通すなる桃の箱 金具バリバリ千切りて開けぬ/足立訓子

→八百屋の仕事がら、わたしは野菜や果物の箱を開けたり処分することがとても多いのです。箱にはいろいろあって、ダンボールの開けやすいものから、同じようなダンボールでも丈夫すぎて処分が面倒なものまでいろいろあります。国内と海外で箱は違ったりもします。
よくわかる歌です。



折り紙を幼なにせがまれ四苦八苦ティラノサウルス?ステゴサウルス/小澤京子

→お孫さんの歌があるのでそういうことなんでしょう。恐竜をつくってほしいというお孫さん、子供らしくてほほえましいと思います。ステゴサウルスの歌をこのあいだもツイートしましたが、すごく複雑な形をした恐竜です。

読み下しやすく整った歌です。



ひょんなこと口に出してみるひょんなこと外では子らが遊び回っている/亀山直也



死にたいとくり返す人の傍らに空豆を剥くザル一杯の/渡瀬栄里子

ふっくらと豆のご飯が炊きあがる私はここでこれでもういい/渡瀬栄里子


→家族の不和や何かがあって、その一方で毎日の生活もあるという、そういう一連。

結社誌に心配になるような歌をつくる方が何人かいらっしゃって、毎月気にしながら歌を拝見しています。








6月号の評のページにうつります。やはり今回も、どこにこんなおもしろい歌が載っていたのか全く気がつかなかったぜという歌がごろごろありました。



新幹線無作為に人選びつつ展示しているごとき窓かな/関口健一郎

美術館といへどぼんやり歩けないリュックサックが顔に当たりぬ/吉田達郎

背に触れるコンクリートのざらざらですり下ろされてゆく待ち時間/澤井綾子

「よそよりもうちだけ遺体が上がるのが早くて何だか申し訳ない」/佐藤涼子




付け加えて何か言いたくなる歌がないということは、みなさんの評がよいのだと思う。







歌会報告。東北集会には別の歌会がかぶってることもあり行けなかった。残念であるとともにうしろめたい。本当は仙台歌会にも行きたいのです。


千名民時さんの書いてる横浜歌会記がおもしろい。こういう書き方もあるんだ。評の言葉をそのままに近い形で残す試み。


さいたま歌会記。松村さんが言うには優秀欄のカットの前と後では違いがないとのこと。長いこと気にしていたことが判明した。
オレは前がいいなあ。といっても、なかなか優秀作にならないんだけど。



小児より演歌うたって三十三に戸川よし乃は少し売れおり/西真行

→戸川よし乃について調べたらブログも出てきたしYouTubeも出てきた。もっと老けたおばちゃんを想像していたがそうでもなかった。
三十三がオレの年齢なのでとても気になる歌。
歌が三万回再生されてるし、それで「少し」しか売れないのはきびしい世界。「冬のすずめ」というのがヒット曲らしいが、作曲がなんと岡千秋だ。芸のためなら女房も泣かす、の。



ファゴットの低き音する陽だまりに読むことのなき手紙一枚/市美穂


岡山歌会が参加者四人とある。ほかはどうだろうと気になって見ていたら北陸も四名でやっている。あとはもっと多いけど、一桁が多い。なるほど。



というところで今月の塔おわり。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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