いとうせいこう「想像ラジオ」内容と感想

「想像ラジオ」を買った。最初のページの「深夜二時四十六分」という言葉で鳥肌が立って、これは最後まで読まなきゃいけない本だと思った。


いとうせいこうさんと言えば、「ゴドーは待たれながら」を読んだことがある。うまいと思った記憶がある。
「ゴドーを待ちながら」のベケットは一時好きだった。


「想像ラジオ」語りたくなったが、語るのが難しい小説だ。オレが語るとつまらなそうに映りそうだ。
「生者と死者の新たな関係を描いた」という帯の文章はうまいこと言ってる。

まあその、ざっくり言えば震災ものだ。だがこれを死者に語らせている。しかも軽快に語らせている。
本の評価の口コミが集まるサイト見てたらボロクソに言われてたけど、オレは面白いと思う。

杉の木の上にひっかかって降りられない、降ろされていない津波の犠牲者。彼は自分の死さえ気づかない。気づいていても認められない。
その念はラジオ番組として流れた。そしてそれは、彼と周波数を合わせられる者、すなわち他の死者がリスナーとなる。

そうして死者と死者が想像ラジオを通じてつながってゆく。
そのラジオのトークがこの本に収まってるというわけだ。
家族のことが何度も繰り返し語られるのが印象的だった。



ラジオっていいよなと思う。
オレが震災にあった時、ライフラインっつーの? 電気とかいろいろ止まるわけだけど、そうしたら情報を得る手段がラジオだけになったんだよ。ネットたいにもっと新しいメディアも、新聞みたいに古いメディアもある。でもいざとなったらラジオだけなんだよ。不思議。

ラジオだけが、今どこでどんなことになっているのかを教えてくれた。
だってわからなかったもん。どんな規模の地震なのか、とにかく状況がわからなくて。
中学生のころに使ってたラジオ、また電池を入れて使うことになるとは思わなかった。こいつ頼りになるんだなあと。

家族で、動くラジオを持ってるのがオレだけだった。夜、といっても6時とか7時でもう真っ暗なんだけど、ろうそくの灯りで食べて、家族で一ヶ所にかたまってラジオ聴いてた。延々と延々と延々と震災情報。

震災情報でもなんでも、外の世界とつながってるっていうのはありがたいものだ。中学生のころのラジオだって、自分の生活範囲から離れた声を聴きたくて布団の中で聴いたんだ。そしてそのおしゃべりや音楽が励ましになった。

「想像ラジオ」を読んでそんなようなことも思った。

震災で生きているこちらがラジオを聴くように、死んでいるあちらにラジオがあったら、というのが「想像ラジオ」の世界だ。死者である主人公は自分の家族を思い放送し、同じ死者であるリスナーはそれに共感したり励ましたりしている。



線を引いた箇所をふたつほど。
第二章では被災地にボランティアに言った若者たちが話し合っている。「ボランティアなんて自己満足なのではないか? 」ということについて、登場人物のひとりが次のようなことを言っていて、そこに線を引いた。

『役に立つことへの、なんだろう、自分で自分をリスペクトみたいな気持ちを抑えに抑えたけど、どれだけ欲を減らしたつもりでも現地の人たちにその坊さんみたいなたかのくくりかたがむしろ気に入らねえって言われた。』


死者の思いを想像してもわかるはずないし、ましてそれが聞こえるなんていうのは甘いし死者への侮辱だ、という問題にたいして次のように書いてある。

『実際、各県の施設に自称霊媒師がうじゃうじゃいる。あれなんか完全に人の不安を利用して亡くなった人の声を聴いてるふりして小銭を巻き上げてる 』
『だけどだよ、心の奥でならどうか。行動と同時にひそかに心の底の方で、亡くなった人の悔しさや恐ろしさや心残りやらに耳を傾けようとしないならば、ウチらの行動はうすっぺらいもんになってしまうんじゃないか。』




と、ボランティアもなにもしないオレが書いてるのも変な話だ。
出てくる人物がみんないい人なのがいい。悪いのは災害だけでたくさんだ。


あと、どうでもいいようなことを言うと、この本の、動けない人がしゃべってしゃべってしゃべりまくる、というシチュエーションはベケットっぽいと思った。いとうせいこうさんに「ゴドーは待たれながら」やベケットのイメージを重ねているからなおさらそう思うのだろう。
ベケット読みたくなった。


ラジオの持ってる良さっていうのがあるけど、それが感じられてよかった。なんでもないような部分で泣きそうになった。ただふだんの生活のことをしゃべってる部分とか。ふだんの生活のかけがえのなさとか、家族のこととか、じーんときた。ありえないような想像が現実に深くつながってゆく。良い本だと思います。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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