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「玲瓏」第八十三號を読む【後編】 ●第23回玲瓏賞発表、わたしの選ぶ玲瓏作品'12、ほか

【つづきです】



(3月11日2時46分)揺り落とされて我々は違ふ世界に来たのではないか/文屋亮「私といふ一本の糸に」

→311とか246というのを見るたびに私は震災を思いだします。極端な話、バーコードの末尾が311、とかでもです。
SFなんかで、何かの衝撃で別世界に飛んじゃうことがありますが、そういうことをこの歌で考えました。
()内を初句と考えると定型に近くなります。



お若いねえと言はれずるりと水苔に足すべらせりなんの刑(しおき)か/小黒世茂「大鰻」



およぐとき「匹」であり焼くとき「本」であり飯のうへ「切れ」となりたり/小黒世茂「大鰻」



花火見て夜空にのこる煙見て帰りの駅で病人を見て/林和清「あららぐ」


→三つ見てますが、見るものの質が大きく変わっていきます。華やかな花火、その余韻、そして病人。花火と病人、なんと大きな隔たり。



酸化せぬやうに被れる皮もちて芯より腐りはじめる林檎/徳高博子「自然(じねん)」



愛猫の尻尾ふくらむマーラーの『巨人』が大地ふんづけたれば/山城一成「からくり」


→フィナーレだろうなあ。あらためて四楽章を聴き、なるほどこれは巨人が大地を踏む様子に聴こえる、と納得した。







第23回玲瓏賞の発表がある。銓衡経過とあるが選考経過のことか。選考の様子がくわしい。最後まで残った五人はかなり丁寧に評されていて、賞が取れずとも収穫は大きいだろうと思う。
上島妙子さんが受賞している。


この賞のために別途作品を募集する形ではなく、「玲瓏」に掲載された作品を対象にしている。
玲瓏賞に輝くと、三号にわたる連続三十首詠の権利、賞状、額入りの塚本先生の書作品が送られるそうだ。

銓衡次第として銓衡委員が歌を引きながらコメントしている。不思議なことに、オレがいいなと思った歌は林和清さんが引用した歌ばかりだ。



老い母のつたなきメール誤字脱字正せぬといふ 正さず送れ/上島妙子



寝ても覚めても脳裡を離れぬ景ありて死者は未だに死者のままなり/浅利瑞穂



見えないものが見えてくる夜更けなり 灯りを消せ ナマエを消せ/浅利瑞穂


→カタカナで書かれたナマエってなんでしょう。オカルトっぽいものを感じました。ナマエを消すっていうのは悪い霊にとりつかれないようにするまじないか何かかと。



ペットボトルもんどりうつて倒れたるもう永遠に夜だ夜だ/惟任將彦

→また結句が字足らずで意味がとれない歌。
よくわからないが暗い力のある歌。
惟任將彦さんの歌はこれで四首目で、多く取り上げさせていただいている。







第2回「塚本邦雄研究の会」前夜祭歌会報告、の中から二首。



わが家には長くてなんにもないトイレット・ペーパーみたいな歳月があつた/小黒世茂

→だいぶ字余りになっている。これはトイレット・ペーパーっぽいかもしれない。引っ張ると引っ張っただけどんどん紙が伸びる。だらしなく垂れた紙のように定型からもあふれている。



死んでまで歌を詠む人ぽあぽあのすすきの間から顔のぞかせて/林和清







玲瓏賞推薦文から二首。編集委員が一人から一首引いて推薦する形になっている。



夕されば雪は光を失ひて闇を孕める海に降りけり/田中蒼治



さくらくらくらくらみゆく狂ふとは生きて死者らに紛れゆくこと/八坂孝純


→さくらから眩みと狂うを導いているのは見事。くらくらして切れ目もわからなくなる。







わたしが選ぶ玲瓏作品'12 80~82號」というのがある。歌に投票している。かなりばらけている。最高が4票。
歌人別で見ると、尾崎まゆみさんにもっとも票が入り、林和清さんがそれに続いている。ここからも何首かご紹介。



命薄き一月の苺つまみをり本当に生きてゐると言へるか/築林歌子

→イの音が頭にきている。内容に重さがあるので、それがただの遊びになっていない。
「命」と「生きて」が重複気味なのが少しだけ気になった。



けふちくたうけふちくたうビルけふちくたう人生はまだらなす追憶/林和清

→林和清さんにも何度も触れている。今回玲瓏を読んで存在感のあった歌人のひとりだった。



この雨はいつやむのだらう窓越しにモノクロの母子が手をつなぎ過ぐ/三品百合子




ちなみに「わたしが選ぶ玲瓏作品'12」最も票を集めたのはこの歌。

「死と乙女」響きかはせり乳の実の父の電話の声の揺らぎに/尾崎まゆみ

→シューベルトの「死と乙女」は弦楽四重奏の方しか持ってなかった(クラヲタ歴15年なのに)。歌曲のほうをYouTubeで聴いて、歌詞を調べた。簡単に出てくるもんだ。

乙女は「死」を拒否し、死神に去ってくれと懇願するが、死神は、乙女に「私はおまえを苦しめるために来たのではない。お前に安息を与えに来たのだ」と語りかける。
Wikipediaから。

乳の実、について知らなかったので調べると、「父」にかかる枕詞だという。


以上をふまえて読む。
父の電話の声の揺らぎ、は父の死の近いことを示している。電話の相手である私は「死と乙女」の乙女のようにその死を拒絶したい思いか。
歌曲の歌声と父の声が掛かっている。響き交わされている。







6ページにわたり塚本邦雄著作リストがあり、「玲瓏」は終わる。



最後に。最初はむずかしい歌が多くて、このままさっぱりわからずに読み終えてしまうんじゃないかと不安だったが、みんながみんな難解ではなく、楽しめた。

そして、何より感じるのは、塚本邦雄が今なお「生きている」ことだ。オレの中では塚本邦雄というのは歴史上の偉人だったんだけど、ここではまだまだ生きていて力を持っている。


こんな感じで今回は終ります。
プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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