現代歌人文庫「岡井隆歌集」を読む【1】「朝狩」「斉唱」「土地よ、痛みを負え」

現代歌人文庫「岡井隆歌集」を読んでいく。
第3歌集「朝狩」が全て収められている。それから「斉唱」「土地よ、痛みを負え」「眼底紀行」「天河庭園集」「鵞卵亭」、つまり第1~6歌集の抜粋が入っている。
それに歌論やエッセイも入ってる。これが1300円なんだから、いい仕事してる。


オレは岡井隆が特別に好きなわけではない。よくわかんないけど偉い歌人、というイメージだ。
よくわかんないのがいやだからちゃんと読もうと思って、これと「私の戦後短歌史」を同時に買った。


以下、読んだ感想。




朝狩

「朝狩」を読んだ。

「朝狩」は第3歌集で、昭和39
年。ほかの歌集は抜粋なのに、これだけが全部収録されてるってことは、重要ってことだよな。前書きや後書きもある。

岡井隆は医者でもある。そのあたり作品に反映されている。
わからない歌も多いが、○がついた歌もたくさんあった。



樹の男の便のおわりしあとに来て形なき泥黄に面よす

→泥黄は「でいおう」とでも読むのか。そういう特殊な言葉や読みはものすごく多い。



耳垢(じこう)ひとつひきいだすたび目みはりて宿直の夜薬臭の夜



ひとしきり人の排泄のにおい満ち病める女に見上げられいつ

→排泄とかそういう歌につい反応する。戦後も安保も自然もオレには身近ではない。
「ひとしきり」は「人」にかかっている。排泄がちゃんとできなくなっても人は人だ。



魂のオナニズムよりのがれうるときをし待てり鋭く痩せて

→「オナニズムより(おあいううおい)」と「のがれうるとき(おあえううおい)」
待っても、絶っても、魂の自慰からは逃れられないのか。



戦いののちの想いをたどりいる一瞬をわが名つよく呼ばれつ

→戦争中には名前を強く呼ばれることがあったろう。戦後の回想からさめたと同時に戦争の記憶に戻される、ねじれの面白さ。



陽のもとにかくも仕事の愉しきを 刃をかざしもち腹腔のぞく



乾く舌 のぞく舌 いま接吻(くちづけ)の昏々として闘える舌



耐えがたく渇く、カ、ワ、ク、と叫びながら乞食(こむじき)「日本」歩みくるなり


このスマホ「こじき」が変換できない。
「々」は「のま」でも「おなじ」でも変換できず、記号として打ってる。



鱗粉(りんぷん)の剥(お)ちつくしつつ踊る蛾の****終焉。われ帽を胸に当つ

→「*」が蛾の形なのだろう。縦書きだから、こちらの視線とともに蛾も落ちる。
珍しく「。」が打たれている。この「。」は蛾の亡骸か。胸に当てた帽子も丸いはず。



独裁者の城の内部が写されて、見よ視線もて焼きうるならば!



発端と末端のこのへだたりをおそれず 潮紅する労働は


→「ほったん」「まったん」でワンペア、「ちょうこう」「ろうどう」でツーペア。
仕事してると、「なにがどうなってこういう仕組みなんだろ」「あれをやるために必要なのがコレなのか」とギャップ感じる。



おれは狩るおれの理由を かの夏に悔しく不意に見うしないたる

→「かの夏」とかいうと、海辺の思い出、虫取り、プール……って考えそうだけど、この頃は夏といったら終戦なんだろう。



どのようにも曲るな 天のいずく指し蒼きこずえよあかき梢よ

→ひらがなへの開き方が面白い。
君がどんな立場でも曲がった生き方はするな、と言ってるみたいだ。



ひざまずきメモとりはじむたえがたくこみあぐる故そこに吐瀉して

→何を目の当たりにしているのだろう。医者だから、臓器とかそういったものか。
オレは清掃業だったころに、立体駐車場で吐き捨てられたガムを剥がす作業で吐きそうになった。



生きよわが歌よりつよく、病むものの世界をつねにかたわらに置き



斉唱

襤褸(らんる)の母子襤褸(らんる)の家にかえるべし深き星座を残して晴れつ



透くまでに露にしめれるすり硝子眠らんとして指を洗えり


→ら行の音。
露が硝子を洗っているようだと。冷たい透明な水を感じるひんやりした歌。
オレも寝る前に手を洗う。べたべたすると気になるから。




言いつのる時ぬれぬれと口腔みえ指令といえど服し難きかも

→口の中見えるってよほど激しい口調だ。冷静でない特殊な状態だ。
赤く濡れた口の中はグロテスクだ。そこに命令の背後にある汚いうごめきを感じとったのか。

激しく命令されたら言うこと聞きたくなくなることはオレもある。
それは声の激しさ、聴覚からくる部分が大きい。この歌は視覚で捉えてるんだ。そこがいいよ。



土地よ、痛みを負え

「土地よ、痛みを負え」抄を読んだ。有名な「キシヲタオ…」はここに入ってた。
えーと、さっきの「斉唱」が昭和31年、この「土地よ、痛みを負え」が昭和36年。数首ひきます。



父よその背後はるかにあらわれてはげしく葡萄を踏む父祖の群れ

→今度はハ行。それに加え、2句から4句のはじめがアー、そこから結句はウーが多くなっていて流れがある。色が変わるみたいだ。

葡萄を踏む、が気になる。葡萄は群れのことを、さらには大衆のことを指していると読める。でも父祖も群れで出てきてる。この場合父は葡萄を踏んでいるのか。いないように見える。



汚れつつ内部をくだる卵ありて暗澹と砂みつめいる牝

→汚れ、くだる、暗澹、と悪いニュアンス。砂は不毛だし、牝は動物だ。
出産の歌だが、嫌悪にみちみちている。
結句にマ行が3つ。



訛り濃き愛の表白 送話器へのびあがり声を殺す少女の



扉(ドア)の向うにぎつしりと明日 扉のこちらにぎつしりと今日、Good night my door!(ドアよ・おやすみ!)



たたかいのおわりしあきに熟れいたる精巣あわれ、卵巣のあわれ
スポンサーサイト
プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR