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小高賢編著「現代の歌人140」を読む【14】[131]前田康子 ~ [140]永田紅

【131】前田康子

最初の歌はどこかで論じられてるのを見たことがあります。どこだったか……


産みし午後、文字という文字釘のごと飛び出て見える紙のおもてに

すごい初句。出産でしょう。
疲労で目の焦点が合わないのだと読みました。
文字がどう見えるとか、新しい命に比べて実に小さいことなんですが、それを丁寧に詠っていて不思議な歌です。
放心状態で考えることもできず、ただ目の前にあるものを見るのみになっているのでしょうか。


仏壇を奥へ奥へと拭いていき手首から先違う感じす

あの世に行ってる感じでしょうか。「違う感じす」というざっくりした表現に惹かれました。



【132】江戸雪


いじめには原因はないと友が言うのの字のロールケーキわけつつ

原因がないことはないと思うんですよね。見えないほど小さいことはあるかもしれませんが。

のの字のロールケーキは螺旋のようです。渦を巻いています。なにもかも巻き込まれてゆく、飲み込まれてゆく、出られない。


きりわけしマンゴー皿にひしめきてわが体内に現われし手よ

取って食べたい感じだろうなあ、と食いしん坊な私は読みます。
性的な意味とかちょっと考えましたが、これは引っ込めます。


近づいてまた遠ざかるヘッドライトそのたびごとに顔面すてる

ヘッドライトはまぶしいので正面から見ることはまずありません。そのたび顔を背けます。かといってその間どこを見るわけでもない。それが「顔面すてる」という大胆な結句になっているのが面白いです。



【133】吉川宏志


十代に別れたひとびと透明な魚のように重なり合えり

確かにあの頃の人たちを思い出すとうっすらして実体がありませんし、みんなひとかたまりな印象です。


子を産みし日まで怒りはさかのぼりあなたはなにもしなかったと言う

ご夫人も歌人だと考えると、この歌をどんな気持ちで発表したのか、奥様がどう読んだのか気になります。


秋の雲「ふわ」と数えることにする 一ふわ二ふわ三ふわの雲

かわいらしい歌です。お子さんとの関係でこういう発想が出てくるのかなあ。
読み方が気になります。
ひとふわふたふわみふわ、よりは、いちふわにふわさんふわ、の方が定型には合います。



【134】大口玲子

難しかったです。ずっと「れいこ」だと思ってたんですが、「りょうこ」だと知りました。


記されし祈りの言葉呟きて祈りに似たることをわがしつ

教会でしょうか。「主の祈り」は祈りの言葉が決まっていて、私も信仰がないのにやったことがあります。
祈りの気持ちがなくても、言葉によりそれっぽいことができてしまう不思議。



【135】梅内美華子

肉体を詠った歌にドキドキしました。


重ねたる体の間に生るる音 象が啼いたと君がつぶやく

こういう歌にとくにドキドキしました。

ほかにも、好きとまではいかなくとも引っかかってくる歌がいくつもありました。



【136】松村正直

フリーターが長かったことは初めて知りました。各地を移り住むというのは意欲的だと感じます。

多くの歌に感じるものがあり、いちいち○をつけられないほどでした。


手を出せば水の出てくる水道に僕らは何を失うだろう

何かを得るのは何かを失うことだ、文明は人を堕落させる、みたいなことが言われます。ですが水道の場合にも何か失っているのでしょうか。何も失ってないとしたら、発展してゆく過程のどこから人は失い始めたのでしょう。大きな問いです。


声だけでいいからパパも遊ぼうと背中に軽く触れて子が言う

こんなこと言われたら断れないし、全身で遊んであげたくなります。
この子は子供なりに「パパは忙しいかな、疲れてるかな」と遠慮しているのでしょう。その遠慮の仕方が子供らしく、しかし少しでもパパと遊びたい気持ちがこもっていて、ちょっぴりさみしいです。


だから言わんこっちゃないとの口ぶりの社説を読みてパン二枚食う

極刑を求める声の清しさに揺れつつ昼のうどんを啜る


同じタイプの歌です。ニュースとともに食事してます。
どうやらニュースの内容には賛同、共感できないようです。しかし反論することもなく黙々と食べている。

これは、同じ「口」がしゃべったり食べたりしているということです。誰かがしゃべり、自分は食べる。
それと、人には人の、自分には自分の生活があるということだと思います。気にいらないもの、理解できないがあってもそれはそれで、自分は自分の生を生きる。

パン二枚は社説の二枚舌と、うどんのつるつる感は「清しさ」とそれぞれリンクしている。



【137】大松達知

「たつはる」って名前だったんですね。初めて知りました。


車中にて親指メールする人よ人を思ふとき人はうつくし

私は最近スマホにしたのでこういう歌は気になります。スマホだと人差し指なんです。(親指でもできますが)だから歌の賞味期限が早いと思いました。また親指の時代がくるかもしれませんし、それはわかりませんが。


満員のスタジアムにてわれは思ふ三万といふ自殺者の数

スタジアムの人がみんな自殺者になったみたいで恐ろしいです。スポーツで盛り上がってるんでしょうからなおさらです。



【138】横山未来子

足が不自由なのは知ってましたが、クリスチャンなのは初めて知りました。


ひとはかつてわが身めぐりを指さして全てのものを名づけたりけり

今当たり前に呼ばれているものはいつどんなふうに名づけられたのか、知ることはできません。が、確かにいつか名づけられたのであり、その場に居合わせてみたかったです。


あふむけに運ばれてゆくあかるさの瞼の外に遠き雲あり

自分自身が担架かなにかで運ばれてる歌ではないでしょう。あかるさが運ばれてるのでしょうか? 私は雲が運ばれてる気がします。主語がぼやけているのは、意識がまどろんでいるから、と思いました。太陽の下で寝ているような歌が続いています。幸せな眠りです。



【139】斉藤斎藤

「渡辺のわたし」は読んでないんですが、かなり知ってる歌がありました。知らない歌はそれはそれで面白かったです。面白い一方で、自分に無力感を感じました。越えられない壁を見るようで。方向が似てたんだと思います。だから飲み込まれた気分になる。


君の落としたハンカチを君に手渡してぼくはもとの背景に戻った

ハンカチを渡して、いいとこ見せたかったんでしょうね。しかし、一瞬背景じゃなくなっただけだった。


前肢が崩折れて顔から倒れねじれて牛肉になってゆく

宮柊二の戦場で人を刺す歌を思い出しました。迫力あります。怖いくらいです。



【140】永田紅

最後ですね。まあいつも通りに行きます。

永田紅さん。歌壇賞を取ったんですね。うまいですが、ちょっと物足りないです。年収の歌とか。「遠い」が30首で4回出てきてます。


川のない橋は奇妙な明るさで失うことを教えてくれる

橋のない川かと思ったら、その逆で面白いです。


ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて

魅力的なアイテムですね下敷きの挟まったノート。若さの表現として秀逸です。上の句はどうでしょうね。
プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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