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『本の雑誌』2020年10月号で……

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うれしかったのでブログ記事にします。


『本の雑誌』2020年10月号の西村賢太さんの連載「一私小説書きの日乗」にオレの本のことが書いてありました。


【夜、工藤吉生氏の第一歌集『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)を読む。心に波立つ歌多し。これはいい本だ。】


わーありがとうございますありがとうございますありがとうございます



立ち読みしてたんだけどゾクゾクーッとして、やばかったです。買って帰って、それから落ち着いていろいろ見てたんですけど、うしろのほうの「掲載図書索引」っていうのにも『世界で一番すばらしい俺』が載ってました。なんと。
こういう索引があると便利だなあ。毎月見ておこう。

「新刊めったくたガイド」に載ったら気持ちいいだろうな……と思って見てたら千種創一さんの『千夜曳獏』が載っていました。


特集の「この机がすごい!」は、ほんとにすごくて笑いました。








西村賢太さんの話に戻しましょう。

2014年にオレは「仙台に雪が降る」という作品で短歌研究新人賞の候補になったんです。それがきっかけで「新進気鋭の歌人たち」という特集で作品をご依頼いただいたんです。初めての総合誌からの作品依頼です。
それで「魂の転落」という10首と自分の写真を短歌研究のメールアドレスに送りました。

そのときに編集の方から、西村賢太さんを思わせる作品というコメントをいただきました。オレはその西村賢太さんという作家さんを知らなかったので、それから読むようになりました。雑誌の編集のかたとやりとりをするのもその時が初めてでしたし、特に印象的なコメントでしたよ。


『苦役列車』など読んでみて、オレと似てないでしょうよと思いましたけど、それとは関係なく面白かったので何冊も読みました。

そういう感じです。

いやあ、嬉しいです。
なんというありがたい三行でしょう。西村賢太さんに「これはいい本だ」と言っていただいたら、もう、こりゃあ嬉しいです。ああ。

歌集を出したからこういう嬉しいことがあるんです。歌集は良いです。

書きたいことは書きました。


んじゃまた。



■■■



宣伝。

工藤吉生 歌集 『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)

発売中!



2018年短歌研究新人賞受賞の第一歌集。
校舎から飛び降り、車にはねられながらも、ぬらっと生きながらえる。

「おかしないい方になるが、高度な無力感が表現されている。」──穂村弘

「人間性が色濃く表れた作品です。黒ずみにちょっとかけてみましょうよ。」──加藤治郎
(短歌研究新人賞選考座談会より)




ご注文はこちらから


短歌研究社
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毎日更新 工藤吉生日記【300円】note
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『未来』2020年8月号・工房月旦〈5月号の歌〉

短歌結社誌『未来』の前号評のページ「工房月旦」に執筆したものを置いておく。
これは『未来』2020年5月号の歌について書いたもので、2020年8月号に掲載された。

山寺は閑散として拝観料三百円の文字のたしかさ
╱薮内栄子

→「閑散として」は人のいない様子で漠然としている。そこへ「拝観料三百円」がくっきり出てきて「たしかさ」と念を押している。



夕暮れと夜のあはひにひとびとはきりとり線のやうに並びぬ
╱有村桔梗

→暗くなってきた、なんともいえない時刻。並んでいるのはなんのためなのか、きりとり線のように距離をおいている人々に、この世のものではないようなおぼろげな寂しさがある。夕暮れと夜の境目にあるきりとり線なのだろうか。



ボサノバがゆるく流れる喫茶店来世のはなし途切れつつ聞こゆ╱安川道子
→喫茶店にはときどき何か宗教の勧誘をしたり神秘的な事柄について話している人がいて、短歌にしたい衝動にかられる。ボサノバと来世の話の組み合わせがおもしろい。



黒板の相相傘に入れられて話すことなく別れたるひと╱深澤格子
→あいあい傘というのはいい加減なもので、べつに仲良くしてなくても入れられてしまうことがある。そして、同じクラスや学年でも話すこともなく終わってしまう人もいる。あいあい傘に入れられたことだけが接点になり、それを年月が経ってからふと思い出したりする。



仏壇に上げたみかんが腐らない仏(ほとけ)パワーと父は叫びぬ
╱森田しなの

→「ぶつパワー」ではなく「ほとけパワー」であることがルビからわかる。おどろいて叫んでいるんだろうか。叫ぶことでパワーになっているようでもある。



用法と用量症状措置方法効果効能禁忌副作用
╱小川清

→斎藤茂吉の「電信隊浄水池女子大学刑務所射撃場塹壕赤羽の鉄橋隅田川品川湾」みたいな歌だ。ひらがなが一文字だけあるのも共通している。茂吉が機上から東京を見渡したように、薬を飲む上で注意すべきことを見渡したのではないだろうか。



幸せを探しに行った夜中にはティラミス味の鯛焼きがいた
╱ファブリ

→ティラミスのような甘いものを食べるのが幸せという人は多い。鯛焼きに入ったティラミスは、理想的な幸せではないかもしれないが、なんだか愛嬌がある。「あった」ではなく「いた」になっていて、鯛焼きが生きている感触がある。



この重き星の核より伝いくるオーボエの音にくるまれている
╱別所勝己

→星の重さをとらえていて、星の核からの音色をもとらえた、感覚の歌。
 
そのほか気になった歌。
薄紙のやうなる春とはいへど鳥、羽搏きにただ破るるばかり 
╱漆原涼


最後に、担当外の欄のことで恐縮だが、ぜひとも書いておきたいことがある。作者名は出さないほうがいいのだろうが、5月号に〈それ以上言はない夫とそれ以上聞かない吾に静かに雪降る〉という歌が掲載された。これは松村正直さんの〈それ以上言わない人とそれ以上聞かない僕に静かに雪は〉に酷似している。この作者は去年11月号にも正岡豊さんの〈だめだったプランひとつをいまきみが入れた真水のコップに話す〉に酷似した歌を出していた。偶然と思えないほど似ていて、しかも2回目なので指摘させていただく。
  

新聞で歌集をご紹介いただきました。(二件)

工藤吉生歌集『世界で一番すばらしい俺』を新聞に二件取り上げていただいたのでご報告です。



まず、共同通信の大井学さんの8月の短歌時評で取り上げていただきました。これは新聞ごとにコーナー名もちがうみたいです。

オレの地元の河北新報という新聞では「短歌時評」ですが、山形新聞では「短歌はいま」という欄になっています。ほかの新聞ではもっと違う名前かもしれません。
また、掲載日も新聞によってちがうみたいです。
主に地方紙に掲載されるようです。







もうひとつは8/28の「しんぶん赤旗」です。オレはこの新聞はまったく見たことありませんでした。ツイッターで紹介されているのを知りました。

谷川電話さんによる「歌壇」という欄です。


どんなふうに紹介されたのか、気になってあちこち検索したら、フェイスブックで画像を見つけました。フェイスブックには、短歌関係の新聞記事の画像を熱心にアップしているユーザーさんがいて、おかげで見ることができます。







あと、これはおまけみたいなものなのですが、今日はあるメディアの取材を受けました。歌集についていろいろしゃべってきました。後日きっとなにかの記事になることでしょう。



そんなところです。
んじゃまた。




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工藤吉生 歌集 『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)

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2018年短歌研究新人賞受賞の第一歌集。
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《歌集読む236》俵万智『サラダ記念日』

歌集読む236

俵万智『サラダ記念日』
1987年。オレがもってるのは1991年4月の375版。

まだ感想を書いたことなかった本。短歌をはじめてからわりとすぐに買って持ってたし読んだんだけど、そのままだった。最近あらためて読んだ。印も何もつけられていなかった。
190ページあってハードカバーで1000円なのだから、売れる本は安いんだなと。




満員の電車の中に守られてうぶ毛ま近き君の顔見る
╱俵万智『サラダ記念日』



「今日で君と出会ってちょうど500日」男囁くわっと飛びのく
╱俵万智『サラダ記念日』

→500日ってキリがよさそうに見えるけれども、毎月の日の数って31日だったり30日だったりするわけで、簡単には数えられないものを数えて覚えていたんだと思うと、気持ち悪いものがある。
下の句は七文字目を「く」で揃えていて、こういう表現がよく見られる。



書き終えて切手を貼ればたちまちに返事を待って時流れだす
╱俵万智『サラダ記念日』

デッキにはそれぞれの風それぞれの話しかけられたくない時間
╱俵万智『サラダ記念日』

東京へ発つ朝母は老けて見ゆこれから会わぬ年月の分
╱俵万智『サラダ記念日』

→時間に関する歌を続けて引いたが、時間に関する歌にばかりつづけて丸をつけていた。
「話しかけられたくない時間」っておもしろい。話しかけられると雰囲気がこわれる。一人を楽しんでいる気持ちにはこんな裏側がある。



選択肢二つ抱えて大の字になれば左右対称の我
╱俵万智『サラダ記念日』

思索的雨の降りいるグランドに向きあいて立つサッカーゴール
╱俵万智『サラダ記念日』

→迷う歌と考える歌。大の字だったりサッカーゴールであったり、イメージしやすいものが出てくる。片寄り、かたむきがない。簡単に答えが出ない問いの形。


エビフライ 君のしっぽと吾のしっぽ並べて出でて来し洋食屋
╱俵万智『サラダ記念日』

→一緒に食事しただけなのに、それ以上のことを思わせる。しっぽとしっぽ。入店するところでも食事するところでもなく、出て来たところを言う。



寂しくてつけたテレビの画面には女が男の首しめており
╱俵万智『サラダ記念日』

ハッピーなカード出るまでくり返すトランプ占い大好き少女
╱俵万智『サラダ記念日』

→ランダムな何かが出てくる歌ふたつ。
○○大好き△△、っていう言い方を昔はよく聞いたけど今はあんまり聞かない。なつかしいように感じた。占いは大好きだけど、ハッピーな結果がもっと好きなんだね。



そんな感じでした。知ってる歌がさすがに多かった。
この本おわり。



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掲載ふたつのご報告

掲載のお知らせです。



8/21発売の『短歌研究』2020年9月号に、
▽新作「エゴイスティック」10首
▽受賞の秘訣ということで書いた文章「載るまで粘る」約800字
▽一昨年の受賞作「この人を追う」30首
が掲載されています。

ああ、それと、歌集の広告が1ページあります。

295ページの厚い雑誌で、そのなかの6ページをいただいております。


ほかにも短歌研究新人賞の発表があったり、岡井隆さんの特集があるので注目ですね。
よろしかったらお読みください。


来月は来月で、塚本邦雄賞とか評論賞とかがあるのでボリュームありそうです。今年の短歌研究はとばしてますねえ。










もうひとつ。


8/21の読売新聞のコラム「四季」で、長谷川櫂さんに歌をご紹介いただきました。

四十になろうというのに若者に向けた批判を身構えて聞く
╱工藤吉生

ありがとうございます。


今回はそのふたつを報告する記事でした。




んじゃまた。




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工藤吉生 歌集 『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)

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《歌集読む235》足立尚彦『冬の向日葵』

歌集読む235
足立尚彦『冬の向日葵』2020年5月。第六歌集。

この人の歌集を読むのは初めて。170ページあるけど短歌は100ページまでで、残りは小説になっている。

足立尚彦さんは「八雁」の方らしい。昭和30年生まれというからオレの父親くらいの世代だなあ。

「歌集は100部印刷して、40人の歌人のみなさまに謹呈し、残りは知人たちに配る」
という。その歌集をオレが所有しているということは、そういうことですね。



寝不足で何やら感じがおかしくて壁にぶつかり自分に気づく
╱足立尚彦『冬の向日葵』



アメリカのトラさんやけに威勢よし日本の寅さんどことなくよし
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→「男はつらいよ」ってアメリカ版もあるのかと思ったが、トランプ大統領のことか。「どことなくよし」を引き立たせるための洒落なんだろうと見た。



下手糞な歌しか詠めぬ我我が結社を微妙に支えていたり
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→さっきの「どことなく」もそうだし、この「微妙に」もそうなんだけど、複雑そうなところをさらっとだけ言って終わる。
この作者が下手とは思わないけども。



鯖缶を今日も買ったよそういえば昨日も買ったまとめて買えよ
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→一人のなかに三人いるみたいだ。鯖缶じゃなくてもよさそうなところ、嫌いじゃない。



靴下のすべてに穴があいていてそれでも選ぶ今日の靴下
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→帯にも書いてある短歌。これこそ「まとめて買えよ」だ。
靴下のことだけじゃないっぽくも見える。ほかのさまざまな選択もそうかもしれないよと。政治の歌もあるけど、政党やなんかの選択だってそうかもしれないよと。



独裁者という職業に就きたればもはや転職不可能である
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→独裁者を職業のひとつととらえた。
オレは古代ローマに興味あるんだけど、スッラ(スラ)って人はさまざまな制度変更をやり通して二年で独裁から引いた。少ないけどそういう人もいる。



ユーミンも郵便局もムーミンもここから下の句が浮かばない
╱足立尚彦『冬の向日葵』



君の行く道は果てしなく近い だのになぜ歌うのか禿げてゆくまで
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→替え歌だ。「歌う」ってことは短歌の道なのか。
元の歌詞は「そんなにしてまで」だが「禿げてゆくまで」となっている。特に何もしなくても禿げてゆく人は禿げてゆく。
だとしたら、果てしなくというほど近いかねえ。という疑問はある。



かすれて読めぬメモのごとしもジャズ・バーは廃墟となりて街に残れり
╱足立尚彦『冬の向日葵』



短冊に書く願い事絞れずに「とりあえず全部」と書いておくなり
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→オレの歌に「余裕がある」と言われるのをオレは気にしているんだけど、この人はもっと余裕があると思う。余裕の先輩だ。余裕道だ。
ほんとになにもかも困っている人の願い事に見えない「とりあえず」だ。



ポスティングされたる宅配のピザのビラ詳細に読む孤独の果てに
╱足立尚彦『冬の向日葵』

のり弁を何十回も食べてきたしかし覚えていない詳細
╱足立尚彦『冬の向日葵』

→「詳細」の歌が二つ続いた。
ああいう弁当って、けっこういろんなものが入っているし、食べる順番を考えたりもするものだけど、言われてみればたしかになんにも覚えていない。



亡妻の実家が取り壊されていた宇宙に過去は無いと思える
╱足立尚彦『冬の向日葵』





短歌おわり。







これは歌集なんだけど最後の65ページは「冬の向日葵」という小説だ。主人公は高校生で、俳句好きの父がいる。その父が亡くなってなんやかんやという話。

印をつけたところが三つあるので引く。

オヤジいわく、宗教団体じみた結社誌、仲良しグループの同人誌、実際には存在しない俳壇というものを存在しているように見せている商業誌、そんなものが俳句の世界を作っているらしい。



本気で泣いたのは久しぶりだった。涙を指で拭きながら、こんな泣き方をしている自分が気に入った。



やさしさとは、「世の中のすべての人々が幸福にならないと自分も幸福になれないんだと思い続けて、その思いがいつの間にか行動に表れること」

──足立尚彦『冬の向日葵』




ほどよく軽くてさわやかさがあって読みやすかった。
主人公の銀次という高校生は音楽系の部活をやっていて、同じ部に好きな人がいるというんで、そこを注目して読んだ。
相手の聡美先輩という人はどんな人なのかよくわからないが、足が太いということだけは何度か言われている。

で、主人公の銀次と聡美先輩がけっこううまくいってるのは気に入らなかった。主人公が高価な楽器を買ってもらえたり、いい学校に進学していきそうなのもあんまり気に入らなかった。でも父親を亡くしているからプラマイゼロになった。
って、自分に重ねすぎているけれども。

父親はたかひこという名前だけどそれをもじってタカピコと呼ばれている。息子にまでタカピコと言われているから異様に感じた。
父親は自転車に乗っていて車にはねられて死んだという。

幸福そうな家庭だったが父親が失業していることだけが心配の種だった。そんななかで父親が亡くなる。

生きている間は父親に懐疑的というかちょっとバカにしていた主人公だったが、だんだん父親思いになってゆくんだね。それを描きたい小説に見えた。


たしかに全体的には悪くないなと思ったんだけど、あとで「気持ち悪いかも」という感触になった。
それは主人公の父親が作者と同じ名前「尚彦(たかひこ)」だからだ。作者と同名の父親が死んで、その息子が父親思いになっていくからだ。遠回しに小説に自分を讃えさせている。
作者と同名のキャラクターが、主人公から大切に思われるようになっていく。それを冗談ではなくて、どうやら本気でやっている。小説を使って自分で自分をヨイショしている。

そう考えてみると、主人公は最初から父親に近い。反発はしているけど父親の行動をつぶさに書くし父親の言葉を正確に読者に差し出してくる。主人公は、父親≒作者を立てるために動いている。

進研ゼミの漫画みたいなもんかなと思った。宣伝でも漫画だから子供は読んじゃう。漫画のほんとの主役は進研ゼミで、これが立つようにキャラクター達は役割分担して動いている。

良くない一つ目は父親の名前が作者と同名なところで、良くない二つ目は寺山の歌をもじったところ。「父につながるわれのソネット」と息子に愛唱させるところ。
これがなければ気づかずに済んだかもしれない。


死んだからって詐欺師が尊敬される俳人になるかねえ。生意気な息子が改心するところを描きたいから、父を舞台から降ろしてみたって感じだ。
生きてるともっと嫌なこともあると思うんだけど、なんにもないんだよね。
そういう余裕たっぷりなところは短歌にも共通している。思い出してみれば、政治を扱った歌だって、首相を愉快そうにおちょくってるばっかりで別に本気で政治に怒ってるように見えないし。


なんか違和感を強調しすぎたかもしれないけども、今まで感じたことのない新鮮な気持ち悪さだったのでしっかりめに書いてみました。


父じゃなくて、主人公のほうを作者と同名にすれば読後感がちがってきそうね。若いのに親を亡くして大変だったなと、しみじみと読んだかもしれない。
どっちもタカヒコという名前じゃないならそれでも全然いい。



短歌はほんとに面白かったです。この本おわり。

《歌集読む234》渡辺順三『烈風の街』  ~轟音はまだ耳を去らず、ほか

歌集読む234

筑摩書房の現代日本文學大系94「現代歌集」の12回目。
渡辺順三『烈風の街』昭和14年。

一冊に古い歌集がいっぱい入っているので、これはお得だぞと思って200円くらいで買ったはいいが、最初から全部読んでたらけっこう大変で、というか気が乗らなくなってきて、3年くらい経ってもまだ四割くらいしか読めてない本。



すべての動作が
悠々としてゐる牛どもを見て
何か反省に似た
こころが湧く。
╱渡辺順三『烈風の街』

→牛に「ども」をつける感覚が自分にはないなあ。珍しくもなんともない感じかなあ。



さむざむと
津軽の野面(づら)暮れかゝり
暗い顔した
百姓に行き会う。
╱渡辺順三『烈風の街』


軍需工場の
轟音はまだ耳を去らず
ぼんやりとして
電車のなかにゐる。
╱渡辺順三『烈風の街』

→電車もけっこう音がしているはずなんだけど、この人の耳に響いているのは軍需工場の音なんだね。音に音だ。
その前の津軽の歌は、日が暮れてきて顔の表情も暗いから、暗さに暗さだ。重ね塗りだ。



冬空をぐーんと突きぬく
大煙突の
 下の長屋は
 押しつぶされそうだ!
╱渡辺順三『烈風の街』

※「ぐーん」に傍点
→空に向かって力がはたらいていると思ったら、下のほうに向かって圧がかかっている。



雪国の寒さにちぢむ
われらの前に
欠食児童の素足が
 ちらちらする。
╱渡辺順三『烈風の街』

→食べるものに困っているうえに「素足」だから靴も履いていなくて、それでいて雪国だ。ちらちらするのは動き回っているってことか。「われら」がちぢんでいるのとコントラストをつくる。



ニコリともしない
小学児童らの真剣な
瞳の色に負けて
うつむいてしまう。
╱渡辺順三『烈風の街』



腰をかがめた
老農もいつか膝の上に
こぶしをかため
息つめてゐる。
╱渡辺順三『烈風の街』

→「農民大会」という一連から。「青森県S地区大会を傍聴して」とある。
1934年作。昭和十年ごろの東北の農家はとても苦しかったらしいと結城哀草果の歌で知っていたが、ここにつながった。



一首が四行または五行。
だいたい全部の歌が「。」で終わっている。「。」で終わっていない歌は「!」で終わっている。
「巻末記」には少年時代からの生い立ちが書いてある。石川啄木を知って土岐哀果を知って西村陽吉を知って云々。
この歌集おわり。




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お知らせ。




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[結社誌読む167] 『未来』2020年5月号  ~夜をねじりつづけて、ほか

結社誌読む167

『未来』2020年5月号


自分がしっかりしなければと思いつつぐずぐずと居るこの快感
╱大島史洋



玄関は靴の寄港地ハイヒール、スニーカー、軍靴のようなロングブーツが
╱道浦母都子

→玄関を港に、靴を船にたとえた。ロングブーツはひときわ存在感があるようだ。「軍靴のような」で港の雰囲気が変わってくる。



「異邦人」聴きつつ願書を認(したた)める志望動機に架空を添へて
╱大西久美子「海の学校」



こくめいにおぼえていろよ どれくらい合鍵は夜をねじりつづけて
╱蒼井杏「6Pチーズ」

→合鍵はあるが簡単に出入りして済むようなことではなさそうで、情念が感じられる。ねじれた関係。




心って外開きかな閉ざすとき内側に引く感じがしてる
╱ゴウヒデキ

→心を窓にたとえた。心を閉ざすときの感覚をとらえている。



血であれば助けたろうか突然に吐く人を避け車両を移る
╱ゴウヒデキ



退勤後、口を閉じてる。舌の根にVC3000のど飴のせて
╱鷹山菜摘「オープニング」

→「VC3000のど飴」というと天童よしみの歌が聞こえてくるようだ。一瞬ウイルスの名前みたいにも見えてしまう。
口を閉じてるから自分しか口の中にあるものを知らない。一人の時間だ。



障子ほそく開けてのぞけば雪降りて音みなすはれしづかなる朝
╱飯田明美



お母さん体力なさすぎるという声背後より迫ってきたり
╱綾部未央



新たなる趣味のひとつに加えんと塗り絵ヨガジム茶道つみあがる
╱吉村桃香

→ひとつと言いながら四つでてくる。趣味を増やすというのは簡単ではないらしい。積極的に挑戦している。



霊柩車しずかに吾を追い越して霧たちこめる坂道に入る
╱八島わこ

→霧のむこうに死者の世界がありそう。「しずかに」にもこの世のものでなさそうな感じがでている。上りか下りか。下り坂で想像した。



恥ずかしいことばかりある人生にわざわざ人を集めて歌う
╱須田まどか




司書よりも百五十円高いからマスクを掛けて段ボールを閉じる
╱大塚絵里香「Ericaさん」

→時給が低い仕事から高い仕事へと移ってきたんだろう。司書のほうがやりたい仕事だったように読めた。



手巻き寿司の具材を作る家族全員で逃げるのがいいと思う

ポトフを作ったのでお集まりください予測変換はポルポト
╱鼠宮ぽむ「こんばんは」

→1首目と4首目。おいしそうなところから急に突き落とされる。



十五時間眠る間にご近所の新生児の名など思い出す
╱安藤ニキ

→ながい眠りだ。そのあいだに頭のなかにはいろんなものがあらわれては消えていったんだろう。ご近所の新生児の名は、けっこう遠い深いところにしまってあったようだ。



「ありがとう!仲間に感謝!」全身に書いて助かる耳なし芳一
╱篠田くらげ

→全身に書かれたその言葉は、もはや宗教的な力をもっている。この力で助かった芳一には、この世の試練がまだまだ続きそうだ。



フェイスブックのアイコンに見る幾とせを若い笑顔のままにてきみは

アイコンが季節の花となりてより闘ひの日々を思はざるを得ず
╱三田村広隆



ドーナツの穴に指入れまはしをり悪の魅惑と善の退屈
╱山田富士郎

→歌のたたずまい、みたいなのが良くて丸つけたけど、こういうときの「悪」ってのがほんとはよくわからない。あおり運転でも万引きでも痴漢でもなさそう。



合唱祭いちども開かぬ口がある一年生男子のなかに
╱長嶋あき子

→コンクールとか発表会でなくて「祭」なのが歌の影を濃くしている



わけもなくわれであるらし 膝折りて湯船に浸かる すこしあふれる
╱井上駿




『未来』2020年5月号でした。佐伯さん大辻さん紀野さんの欄については8月号の誌面に書いたのでここでは省略です。

この本おわり。








工藤吉生 歌集 『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)

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「おかしないい方になるが、高度な無力感が表現されている。」──穂村弘

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『未来』2020年7月号・工房月旦〈4月号の歌〉

窓越しのとてもとほくに見た海と小さき画像にをさめた海と
╱谷とも子

ふたつの海。想像してみると似ている。距離と、大きさ。遠い小さい海が、詩的に感じられるのはなぜだろう。



「おべんとうはシュークリームね」おさな児の声遠ざかるエスカレーター
╱フナコシリエ

エスカレーターで親子とすれちがったのだろう。実現されなかっただろう理想のお弁当が頭の中に浮かび上がる。あるいは本当にそんな事があるのかもしれないが、もうわからないのだ。



身のどこか病む箇所あれば電灯の灯らぬ部屋のあるごとくいる
╱谷川郁子

体を家に例えた。昼間はいいけど夜は困る。



訪うたびに宗教用具ふえてゆく部屋に知らない人となる従兄(あに)
╱青山達雄

宗教が、知ってる人を知らない人にしてしまう。道具をたくさん買わされる宗教だ。



家の前に小さきかまくら掘られいて下はコンクリが見える雪の量
╱工藤光子

雪が少なかったということを弘前の作者は言いたいのかもしれないが、かまくらがつくれるほど降雪量のない地域の読者は雪が多いと感じるのではないだろうか。仙台のオレもそのひとり。



トマト鍋をぶちまけたような夕焼けで坂のほうから行こうと思う
╱下谷育正

上の句の比喩にインパクトがある。下の句は、夕焼けを見たい気持ちなのか避けたい気持ちなのか読みきれなかった。



玄関の引き戸の溝に入りたる小石がその都度向きを変へたり
╱小池美紀

生活のこまかいことでありながら、もっと違うことも思わせる。運命から逃れられない人が、悲惨なことに遭うたびに悲鳴をあげたり泣いたりする、というような。



高きより父の掌下りて来て子の頭を深く圧したりしばし
╱雅風子

 北原白秋の有名な卵の歌を思わせる。下の句は、不器用な愛情表現にも見えるし、もっと複雑な感情にも見える。



中三の修学旅行はカナダとうこの体験は役に立つはず
親である娘夫婦の言うことは無事に帰って来ることのみと
╱松浦寿美子

祖母の立場と読んだ。修学旅行へ孫(娘夫婦から見れば、子)を送り出す気持ちのちがいがあらわれている。送り出される本人の気持ちはあらわれない。



描かれた人形から目を逸らしつつ終了間際の展示を巡る
╱高橋菜穂子

人形そのものではなく、絵に描かれた人形の目だ。逸らしたくなるのはなんらかの力があるのだ。



年上の女性にもてると言ふ部長がヨガのポーズとる わからなくもない
╱木村弥生

「わからなくもない」の距離感がおもしろい。無理解無関心でもないが部長をとりまく「年上の女性」たちに加わっていきそうな様子もない。ヨガのポーズをとる男性を職場で見たことないオレには部長が不思議な人物であり、これは不思議な歌だ。



コスプレの衣装にアイロンかけている手の甲のしみ星空めいて
╱詩穂

 架空の世界と現実が交差する。また来月!

▼ニューウェーブ▼歌集ってえらい、ほか  ~2020年7月の日記から

毎日更新・工藤吉生日記【300円】note
https://note.mu/mk7911/m/m94efea4348b3

のなかから、7月前半に書いたものでなおかつ公開してもいいかなっていうものをここに出しておく。興味あったら300円でnoteの日記を買っていただければうれしいです。





▼ニューウェーブとは何か?

『現代短歌のニューウェーブとは何か?』
読みはじめた。

小池光さん、藤原龍一郎さん、加藤治郎さん、荻原裕幸さんの「何が変わったか、どこが違うか」読んだ。なかなか両者の溝が埋まらず、ギスギスした気分になった。
加藤さんだけはもってきた歌を引いてしゃべっていてマイペースなところがある。

短歌は「何かを受けて返している」ものだという小池さんの話が印象的だった。







『現代短歌のニューウェーブとは何か?』読みおわった。
ひとつのことをみんなでがっつり論じた本って意外に珍しい気がした。おもしろかった。

新人賞の公開選考ってどんなもんだろうな。応募者になってその時間を過ごしてみたかったような、おっかないような。





▼歌集ってえらい

歌集ってえらいんだなと思うよ。
同じような内容でネットにアップしたってそんなに読まれないし話題にもならない。もっと安い価格であろうと、なかなかお金を出してはもらえない。
それがどうだ。紙の本にまとめたら1650円でも文句言わずに出してくれる人がいっぱいいる。

紙で歌集を出すというと注目してもらえる。今までどこに隠れていたんだ? というくらい人が集まってきて、いいねしたり拡散したり言及してくれる。

歌集ってえらいなあ。

考えてみれば、そういう「えらさ」への反発でネット活動してたところもあったかと思うよ。
あらゆる投稿サイトに出したり、まとめをあちこちに作成したり、短歌botを作ったり、ブログを頑張ったのも、自分の本は出ないと強く思っていたからだよ。
何が起こるかわかんないね。





▼大賞

ぬらっと!短歌大賞やった。
なんだかんだで今回も無事やれたのでよかった。
togetterにまとめた。

#2020上半期短歌大賞 35首 - Togetter
https://t.co/8tPb3vhZ1X


短歌の感想を書くの、むずかしいなあ。下手だなーと、思うように書けてないなーと、自分で思うよ。





▼歌集ラッシュ

若手の歌集出版ラッシュといわれる。
群雄割拠というか、すごそうなものが次々出てきて戦国時代だ。ようするに短歌が活発だということだ。自分がそのなかにいるからか、あんまりラッシュを感じてはいないんだけどさ。


ドーンといきたいな。
しかし、またも木下龍也・岡野大嗣両氏の次くらいの集団におさまるんだろうか。投稿をやってたころからずっとそんな感じなんだよ。

木下さん岡野さんの二人が投稿欄をにぎわせていたころ、オレはちょこちょこと載る人だった。
二人が歌集を出しはじめたころ、オレは投稿で常連になってきていた。
二人が何冊も著書を出した今、オレはようやく一冊でる。
二人とオレはたぶん同じくらいのタイミングで短歌をはじめたわけで、差がくっきりとでている。
オレは結社と新人賞を通っているから、違うところも多いといえば多い。

どこまでいっても前に同じ人が走っているから、客観視点では前進していても、オレの主観視点では視野に同じ背中がずっとある。
しかし案外こういう存在が、なくすと惜しいものになったりするんだろうね。
二人のおかげでオレはここまで進んでこれた、くらいのことは考えるかもしれないな。







今回はこんなところです。宣伝して終わります。



工藤吉生 第一歌集 『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)

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2018年短歌研究新人賞受賞の第一歌集。
校舎から飛び降り、車にはねられながらも、ぬらっと生きながらえる。

「おかしないい方になるが、高度な無力感が表現されている。」──穂村弘

「人間性が色濃く表れた作品です。黒ずみにちょっとかけてみましょうよ。」──加藤治郎
(短歌研究新人賞選考座談会より)




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。
2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

「未来短歌会」所属

Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)

第61回 短歌研究新人賞 受賞(2018年)

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