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『未来』2021年3月号・工房月旦〈2020年12月号の歌〉

短歌結社誌『未来』の前号評のページ「工房月旦」に執筆したものを置いておく。
これは『未来』2020年12月号の歌について書いたもので、2021年3月号に掲載された。




この朝の涼しい風を体内に循環させる技しらないか
╱門田照子

→きっと心地よい風だったのでしょう。体の中に取り入れたいくらいの。



帰ったらマスクをはずし珈琲を淹れてつぶれたパンを食べよう
╱山口青

→外ではマスクが必須です。マスクをはずしてコーヒーをいれるところまでは部屋でのリラックスの様子です。パンは、バッグの中にでも入っているのでしょう。ぎゅうぎゅうなのでしょうか。外では圧迫されて部屋で圧迫から解かれるパンが、心のようです。



思い出は季節はずれの虫籠を探し歩いたアーケード街
╱原田美椰

→子供としての思い出なのか、小さい子供を連れての思い出なのかはわかりませんが、せつないものを感じました。あっちにもない、こっちにもない、と探しているわけです。アーケード街もいいですね。大型ショッピングセンターが悪いわけではないんですけども。 



わが髪も我より離(か)れば不気味なる黒き物体、排水口に
╱稲見陽子

→頭から生えていれば普通なのに、離れると不気味になるのは不思議なことです。読点からの結句「排水口に」が効いてます。黒い物体が吸い込まれていく様子はとりわけ不気味です。



。ひんがしの空夕光に映えわたり機影は繊き針のごと翔ぶ
╱橋本武則

→古典和歌のように歌い出されます。三句までは空のことだけを言っていて、広々としています。空の大きさに、かすかな機影。絵になるような美しさです。



マスカットはマスカット色に垂れ下がり透きてゆきたり夏のあれこれ
╱洲之内美沙子

→マスカットの緑色の粒。マスカット色とでも言いたくなるような色合いなんですね。「夏のあれこれ」とはなんでしょう。あまり外に出かけられない夏だったかもしれませんし、今年の夏のことだけとは限らずにもっと広い意味にとっていいのかもしれません。上の句で出てきたマスカットの色が、下の句の「夏のあれこれ」を透けさせる。それくらいマスカットが強く出ていて印象的です。



コンサートの中止の報に所在なく点りはじめる窓を見ている
╱飯尾睦子

→楽しみにしていたコンサートだったのでしょう。「点りはじめる窓」はいつもの部屋から見る相変わらずの日常生活です。空が暮れてきたのがわかります。落胆の様子が下の句によくあらわれています。



わずかだが古い記憶に入りくる花のかおりだ膝折りて嗅ぐ
╱草野浩一

→香りが古い記憶に入ってくるように感じるこのですね。「膝折りて」がいい。花に向き合っている。古い記憶を呼び覚まそうとしているようでもあります。



飛来地に立つのは素足 ベランダにこの世のどこかから夜が来る
╱漆原涼

→飛来、というと鳥ですかね。鳥はみな素足。一字空けて、場所はベランダです。夜が鳥のように、それも、部屋のすぐ外にまで素足で飛来してくるということでしょうか。素足は何を意味しているのでしょう。ひたひたとやってきて、じかにつたわる体温があるということかと読みました。

 最終回でした。ありがとうございました。

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[結社誌読む173]『水甕』2020年11月号  ~はァい などとふ濁声、ほか

結社誌読む173
『水甕』2020年11月号



『水甕』は初めて読んだ。歌集評をしていただいた関係で入手した。
今年の夏で短歌はじめて十年になるが、手にとったことのない結社誌は多い。心の花もまひる野もりとむも読んだことがない。

この『水甕』は114ページある。
結社誌の全部の短歌は読めないので取捨選択した。結社誌をよく見れば、長く所属している人や選をする人たちの欄だとか、今月の特選みたいな欄があることが多いので、そういうところを優先的に読む。



はァい などとふ濁声も混りつつショベルカー唸り隣家消えゆく
╱藤井幸子「しづかな荒野」

→「はァい」が目をひく。これはダミ声だというんだね。ショベルカーの唸りのなかにダミ声が混じっている。家の解体を聴覚でとらえた。

「しづかな荒野」という題がある。この本の前半の欄では詠草にみんな題がついている。どれも歌の中の言葉から題がつけられてるが、こういう題は作者本人じゃない人がつけている可能性がある。
もし自由であるならば、無題の人がいたり、変わった題をつける人もいるだろう。



気がつけば時間を止めている時計 白い茸が雨に目覚める
╱藤本潮子「文月を登る」

→ふと時計を見ると秒針が長く止まって見えるという現象はあるし現象に名前もある(クイズによく出たりする)。
下の句への展開がいい。これがあるから上の句が神秘的になる。



警報が画面の隅を陣取りて告白シーンは土砂降りの中
╱杉山幸子「告白シーン」

→テレビ画面にL字型に警報が出たりすることがある。大雨警報だったらちょっとおもしろい。



ホチキスの空打ちで気づく針の切れそんな別れが確実に来る
╱四方護「青田」



ハモニカに似ていて楽しポケットに滑り込ませるスマホの重さ
╱四方護「青田」

→ハーモニカをポケットに入れていた頃があったのだろう。その重さにハーモニカを感じていたと。なんだかレトロな感じがする。
スマホの重さがハーモニカに近いというのはひとつの発見だ。重さの類似から楽しさが生まれている。「滑り込ませる」もいいよなあ。所有することの気持ち良さが出ているように思うがどうだろう。



食の字は人を良くする三食をびしりと食べて百まで生きん
╱松元慶子「ダックの歩み」

→金八先生みたいなことを言っている。注目したのは「びしり」。



コメンテーターのスーツの生地が薄くなり巣籠もり長く五月来たりぬ
╱永福千鶴子

→季節の移り変わりを感じさせるものは家の外にありそうな気がするが、そうとも限らないんだな。室内でテレビを見ていて、そのテレビではスタジオのなかでスーツ姿のコメンテーターが話している。そこにも季節はあらわれている。



泥染みた短歌手帳に鷺とのみ一字書きおく田植えの最中
╱野々村与志美

→手帳が泥染みているのは、農作業にいつも持ち歩いているからだろう。鷺を見たのか、手帳に一字メモした。今は一字書けば充分と。そして田植えの続きをする。そんな暮らしと作歌の様子がわかる。



この本からはそんな感じです

《歌集読む246》原詩夏至『レトロポリス』  ~走ってゆく軽い音、ほか

歌集読む246
原詩夏至『レトロポリス』
コールサック社。2014年2月。

1964年生まれの作者の2014年の第一歌集。略歴によると、二冊の句集と一冊の詩集が先に出ている。

鈴木比佐雄さんによる栞には、原さんが穂村弘『シンジケート』に大きな衝撃を受けたことが書いてある。



Tシャツの童話作家がイグアナと激しく見つめ合うガラス越し
╱原詩夏至『レトロポリス』



赤土の丘を背に立つ「秘孔衝かれて爆死したモヒカンの墓」
╱原詩夏至『レトロポリス』

→北斗の拳。ほかにウルトラマンとか鉄腕アトムも出てくる。

こういうのが続きます。



コマすべて大口開けて絶叫の恐怖マンガと寝る草の上
╱原詩夏至『レトロポリス』



足がタイヤのドラえもん縁側に置けば走ってゆく軽い音
╱原詩夏至『レトロポリス』

→こういうのはあった。小さい頃に映画館でドラえもんのおもちゃがもらえた。チョロQみたいに後ろに引くと走るドラえもんのおもちゃを持ってたことがある。「縁側」や「軽い音」がなつかしさをふくらませる。

あと、この歌集全体に言えるんだけど75577の形の作品が多い。さいしょの7は耐えられるけど、つぎの5・5が馴染めない。流れていたものが止まってしまう感じがする。
それと、体言で終わる歌がものすごく多い。見開きの歌がすべてそうなってることも珍しくない。



ダイオウイカの暗黒のキスを待つ潜水艦(サブマリン)ライトをみな消して
╱原詩夏至『レトロポリス』

→「暗黒のキス」に危険な魅力がある。なんと暗くてしずかな時間だろう。それのために深海に潜ってるんだとしたらやばいなあ。



風呂で死ぬ役の駆け出し女優(アクトレス)明日に備えて眠る七月
╱原詩夏至『レトロポリス』



アサガオの蕾のドリル塗りかけのまま絵日記は明日も未完
╱原詩夏至『レトロポリス』




最初から最後までわりとシンジケートなので、途中からは「もっと似ろ、もっと寄せていけ!」と応援する気持ちになる。



フローリングに頬を冷やして口ずさむ三つ和音の「お辞儀の調べ」
╱原詩夏至『レトロポリス』



指先のない手袋の指先が受け取る今年はじめての雪
╱原詩夏至『レトロポリス』

→アサガオの蕾のドリル、お辞儀の調べ、指先のない手袋。もっとちゃんとした名前、正式名称がありそうだけど知らないものが、正式名称でないまま出てくる。「降りますランプ」枠。



俺は根に持つ方だよときっぱりと告げまた被るサンタの帽子
╱原詩夏至『レトロポリス』

→「根に持つ」と「きっぱり」の取り合わせ。こんな帽子をかぶらせやがって、と思いながら働いているところか。いや、本当のサンタかもしれない。



シャンデリア消せば波音ウェイターがスタッカートで弾く「お正月」
╱原詩夏至『レトロポリス』




ソープランドに入りそびれた哀しみに星まで歩くこと青春は

泡風呂の泡に向かって目を開きつつ猛然と誤魔化す涙
╱原詩夏至『レトロポリス』

→「星まで」とか「猛然」に、行き場のなさが出ている。




そんな感じです。
本物を見てる時に感じなくて、モノマネを見てるときに感じる面白さがあるけどそれって何だろう。ってなことを読みながら考えました。この本が必ずしもモノマネだというわけではなくてです。



この本おわり。

{短歌の本読む155}『ぱんたれい vol.2』  ~スタンガンを使ったこともないままに、ほか

短歌の本読む155

『ぱんたれい vol.2』
2020年9月。笹川諒さんと三田三郎さんの同人誌のようです。



増やしてもよければ言葉そのもののような季節があとひとつ要る
╱笹川諒「サブマリン」

→「増やしてもよければ」と控えめに入ってきたが、「あとひとつ要る」に、必要なもののことをよく知っている様子がある。どんな季節だろう、ということの前に「言葉そのもの」につるんとした謎を感じた。



行儀よく座る男の膝の上に拳という鈍器が置いてある
╱三田三郎「俺もまぜてくれ」



換気扇 ふつうがいちばんいいよって言うことのないほうの人生
╱平岡直子「夜型」

→それってふつうなのかふつうじゃないのか考えてみたが、ふつうって何だって問題がある。空気は入れ換わる。人生はたぶんそうならない。



布団だけ僕の帰りを待っていた 抜け出たときの姿のままで
╱三田三郎「僕の歌」



薬局にすこしはみ出るじゃがりこがしまわれてゆくのを夜と呼ぶ?
╱御殿山みなみ「半袖」

→この歌は疑問符が、この前の歌は読点が、この後の歌はパーレンが気になる。気になる記号の歌3連発のエリアだ。
「?」がなければ、そういう短歌もあるよねっていう歌なんだけど。呼ぶのか呼ばないのかこっちが問われると、いや、まあ……ってなっちゃう。



スタンガンを使ったこともないままに老いていくのか それはいいのか
╱三田三郎「路上より」

→何かをしないまま一生が過ぎていくことを詠んだ歌ってある。やや古いところだと〈われの一生に殺なく盗なくありしこと憤怒のごとしこの悔恨は╱坪野哲久〉とか。
このスタンガンの歌は、悔やみかけて迷っている。自衛にしろ脅しにしろ、好ましい場面ではない。それでも一度くらいは……。



良く言えばうなぎのような歌い方

ファム・ファタルならば送料無料です
╱笹川諒「生徒会書記」

→これは川柳。この同人誌には詩や小説も載ってたりする。



イヤホンをひとつなくして夜の駅が讃美歌まみれとしってしまった
╱上篠翔「帝国」



触れるだけで涙をこぼす鳥たちを二人は色違いで飼っている
╱笹川諒「ミンストレル」



ゴミ箱を探して街をさまよえばテロリストの歩幅になっている
╱三田三郎「ハッピーシティー」



下水にも桃は流れていたらしい

自分から自分にうつる風邪もある
╱三田三郎「アナザーストーリー」

→川柳ふたつ。こういう書き出しの物語があったら読んでみたい。



この本からはそんな感じです。

〈総合誌読む146〉『短歌研究』2020年9月号  ~耳かきを吸う掃除機、ほか

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総合誌読む146

『短歌研究』2020年9月号


容赦なくテレカ引き込む公衆電話の変なパワーを指は記憶す
╱島田修三「草原の輝き」




短歌研究新人賞が発表されている。

この町に生まれていたら通ってた小学校から飛び出すボール
╱平出奔「Victim」

→受賞作品。
「飛び出すボール」が別の世界線から突然やってきたみたいで、よかった。



中指の骨が天井つきぬけてまひるの星をかっさらってく
╱湧田悠「骨とひかり」

→次席の作品から。
一連のこのあたり、「おなかの中でする平泳ぎ」「ユニットバスごとこの星に殴られている」「へそを宇宙に浮かべてる」「背中を空の青で洗った」とか、体の感じが不思議。



校庭は車のライトで照らされてうわくちびるが視界にはいる
╱公木正「ナイトクルージング」



警官の吹く笛の音、変だった 文庫の本にまつ毛が落ちた
╱公木正「ナイトクルージング」

→「変だった」といえば、全体的にかすかに「変だった」ものが出てくる連作なんだと思う。変なもの、一字あけ、変なものという形は、二つ前のユーエフオーの歌もそうでしょう。変なものが二つ出てきて、関係しているのかしていないのか。気になる。



一瞬で耳かきを吸う掃除機をみてしまってからの長い夜
╱公木正「ナイトクルージング」

→除去する側である耳かきが、突然除去される側になる。長い夜に、耳かきが入った掃除機のホース、掃除機の内部を思った。

こういうのをもっと読みたいと思う連作だった。



いつまでも読み終えられず仮眠室のゴルゴ13は開き癖あり
╱犬養楓「ゾーニング」



順番に傷が治っていく顔を洗って触る 愛はおもしろい
╱瀬口真司「命中」



思い出になる並木道 空っぽのクッキー缶 来年の今ごろ
╱小谷映「クッキー缶」

→過去現在未来、みたいなことなのか。そう考えると、過去の思い出は感じがよさそうだけど、現在は空虚で、未来はなんにも見えない。



最後かも知れない部活後輩にサーブの権利握られている
╱谷地村昴「銀河に触れる」

→部活で有終の美を飾りたいところだが試合は不利な状況だ。最後じゃないかもしれないしまだ負けてもいないんだが、ここからどうなってしまうんだとハラハラする。



不自然な日本語字幕の消し方がわからないまま夢が始まる
╱タカノリ・タカノ「 Bedroom Republic」



西口に夜間工事のひとびとが光るコーンで組む魔方陣
╱丸山るい「静かな会話」



石橋を叩けば石橋が二つ 大変なことになってしまった
╱有川わさび

ここから予選通過二首選のページ。
→この歌はツイッターに書き込んだら反応が多かった。
石橋を叩いて渡る、とポケットを叩くとビスケットが二つ、をうまく合わせた。下の句のシンプルさとのバランスがよい。怪力だねえ。



このベースラインはもはや最上川 目を閉じながら芯を揺らして
╱黒川鮪

→下の句に音楽の感じが出ている。変な上の句のようだが、料理漫画だと美味しいものを食べた人がこういう褒め方をしたりする。気持ち良すぎて変なたとえが出てくる。



初めてのカマキリを前にして吾子はただテルミンを奏でる手つき
╱ゴウヒデキ

→テルミンの演奏を見に行ったことがあるのを思い出した。前の席のお客さんが動くだけでも音程が変わるほどの繊細な楽器だといってた。
カマキリとテルミンの手つき。互いが構えている。



おはようをあなたの声で聞きたくてあなたとねむる必要がある
╱たなかのたんか


こういうのはよくない。
さよならをあなたの声で聞きたくてあなたと出会う必要があ╱枡野浩一
とそっくりだ。



ここまで短歌研究新人賞。
このあと、特集「短歌研究新人賞の研究」があって、オレもなにか書いたりしたのだった。



現代ってつくものすべてわかりづらくコシのない歯ブラシを使い続ける
╱中野霞「心あります」





133ページからは平成16年からの短歌研究新人賞の受賞作品が載っている。読んだことない作品がけっこうある。オレが知ってるのは平成24年(2012年)の『ハッピーアイランド』からなので。



欠けているものがあるんだ霧雨と海の交わる場所のかなしさ
╱嵯峨直樹「ペイルグレーの海と空」


チョーク持つ先生の太い親指よ恋知る前に恋歌を知る
╱野口あや子「カシスドロップ」

→退屈な授業なのかなあと思ったね。太くて、しかも親指だ。黒板にガシガシと書かれているんだろう。恋の感情の伝わってこない授業なんだろうなあ。



見せつけていられるような傷なんて自分で彫った刺青(いれずみ)でしょう
╱野口あや子「カシスドロップ」



ドーナツを半分にまた半分に方向音痴なひとの朝食
╱田口綾子「冬の火」

→昔のおもちゃ「チクタクバンバン」みたいだと思った。パネルをずらして道をつくるゲーム。カーブを曲がってばかりでどこにも行き着かない。



あのひとにいろんな嘘をついたから火のコーラスが聞こえなくなる
╱田口綾子「冬の火」

しあわせになれないという嘘をつきここから川の名前が変わる
╱𠮷田竜宇「ロックン・エンド・ロール」

→嘘をついたらどうにかなっちゃうという歌。川の名前が変わるのは、そこで分岐したのか。嘘をついた側のルートに進んでしまう。



肺ふかく暗闇をもつ君といて手持ち花火はたかく掲げる
╱山崎聡子「死と放埒な君の目と」

→いい連作タイトルだなあ。
肺ふかく暗闇、って肺病でも患っているのか、暗い過去があるのか。高山君やひぐらしは死んでいて、死の予感のある連作だ。たかく掲げられた手持ち花火は暗闇を照らそうとしているかのようだ。



(心配をかけてごめんね大丈夫気にしないでね)息を止めて打つ
╱馬場めぐみ「見つけだしたい」




さみしい、と子どもの声のしたっきり人影のない真昼の団地
╱細川街灯

→短歌研究詠草から。
なんの声なのか。こわいねえ。夜とは別の怖さだ。



短冊に何も書かない少女なり短冊白く風にゆれをり
╱小野一男

→これも短歌研究詠草から。
願いがないのか、それとも言葉にならないような何かが短冊にこめられているのか。


短歌研究詠草の選者はいつのまにか変わってきた。オレが投稿してたころは永田さん→馬場さん→高野さん→幸綱さんの四人だった。
今回は水原さんだったが、選者によって集まる歌が変わってくることもあるだろう。



このコーヒーカップを思いっきり壁にぶつければ手に居残る取っ手
╱甘酢

→「うたう☆クラブ」から。
たしかにそうなりそうだけど、なんでそんなことを! 投げつけないで、取っ手を持ったままぶつけている。壊そうとする意志と、持っていようとする意志が両方ある。



そんな感じで、この本おわり。

『未来』2021年2月号・工房月旦〈2020年11月号の歌〉

短歌結社誌『未来』の前号評のページ「工房月旦」に執筆したものを置いておく。
これは『未来』2020年11月号の歌について書いたもので、2021年2月号に掲載された。







気がつけば図太くなってポップ体みたいな声で叫べたりする 
╱若枝あらう

→比喩がおもしろいです。声にも明朝体やゴシック体など、色々ありそうですね。ポップ体みたいな声の叫びとはどんなものでしょう。お店の入り口で呼び込みをしてる様子を想像しました。
 掲載されている8首のうち「みたい」が3首、「ように」が2首あります。このへんのバリエーションが増えるとさらに良くなりそうです。



ふるえなくなったこころはひと粒のいちごを盗むことりのようだ
╱山口青

→これも魅力的な比喩の歌です。こころやいちごやことりが平仮名で書かれていて抽象の度を上げています。意味はあんまりよくわかりません。盗みをする鳥には心が無いということなのか、イチゴを鳥に盗まれたから心が震えなくなってしまったということなのか。でもそこはあまり気にせず読みました。



欲望、おまえが口にするときの奇妙な涼しさを信じよう
╱村上きわみ

→「おまえ」が何かを欲している、あるいは単に「欲望」という単語を言ったとも読める。そこに涼しさがあると。人によっては欲望っていやらしくなるんですが、この「おまえ」には「奇妙な涼しさ」がある。それがかっこいいです。



止む間なく昔話の声籠もり家のふくらみゆく盆の夜
╱馬場順子

→お盆には家族が集まって昔の話で盛り上がることが考えられます。そこから「家のふくらみゆく」につながる。物理的なふくらみではないんですが、かといって精神的なふくらみといっていいものか。お盆なので、死者も混ざっているかもしれません。



ペンギンに生まれ変われば下り坂わくわくしながらお腹で滑る
╱ファブリ

→ペンギンは氷の坂をお腹で滑りますね。それをやってみたいということでしょう。「わくわくしながら」が楽しい歌です。変な姿勢ですべり台を滑り降りた、遠い子供の頃を思い出します。



「マンゴーをたべるとごさいになるんだよ」おさなにはおさなの世界あるらし
╱稲見陽子

→子供ってこういうことを言いますね。五歳になるというのは、この子にとっては年をとるということなのでしょう。マンゴーが、不思議な作用をもたらす魔法の果物に見えているのかもしれませんね。



ポジティブとまたポジティブと唱えれば雨はポジュポジュ敷石跳ねる
╱州之内美沙子

→雨が降ると空は暗く、気分がネガティブに落ちることもあります。ポジティブポジティブと唱えることで前向きになろうとしているのでしょう。その甲斐あってか、雨がポジュポジュと跳ねているというのです。強引と言ってもいいくらいのオノマトペ「ポジュポジュ」に注目しました。



ワンワンのたまごボーロがレジに往く十数秒を全力で泣く
╱田丸まひる

→テレビの子供番組「いないいないばあっ!」のワンワンでしょうか。レジでピーするからお店の人に渡してねー、と言っても子供が分かってくれません。省略があって、自分が泣いているとも読めそうな、幅のある表現になっています。

{そのほか短歌の本読む154}『NHK短歌』2020年11月号  ~花の写真を、ほか

短歌の本読む154

テキスト『NHK短歌』2020年11月号。

総合誌と結社誌と歌集以外は「そのほか短歌の本」でまとめている。それの154冊目。

NHK短歌テキストは投稿をやめてからあまり読んでない本だ。この号は歌が載ったのでたまたま持っていた。ひさしぶりにNHK短歌テキストを読んだ。



うずくまりますかかなしくなるときにわたしはいつもひとりでしたか
╱本多真弓『猫は踏まずに』

→NHK短歌テキストは、佳作以下の投稿歌以外の多くに解説がついていて親切だ。だからオレが言うことがほぼない。
それでも言うと、自分で自分がわかんなくなってるみたいですごいショックなのだなあと思った。ひらがなもだけど、語順にも混乱があるように思う。



青インクの匂ひのやうな夜の秋 ホルンの人と電話つながる
╱河野美砂子『ゼクエンツ』



伯父さんが蛇のこわさをわたくしが蜂のこわさを語る墓地にて
╱岩倉曰

→蛇とか蜂とかがでる墓地なんだろうか、あるいは雑談してるのか。それぞれのこわさがあるが、亡くなった人はどちらのこわさも感じない。最後の「墓地にて」でふっと別の視点がはいってくる。



もし母の存在しない世界なら花の写真を撮ったりしない
╱澪那本気子

→花の好きな母だったんだねえ。「しない」が二度あり、名前のせいもあるのか、花を見せたい思いの強さを感じた。



題「もし」のページは、「もし」で始まる歌がたくさん載っていて、異なる世界線がたくさんうねうねしているような印象を受けた。



もし僕が逮捕されたら過去を知る友人Aは誰なのだろう
╱佐々木敦史

→自分が凶悪犯罪でつかまったらテレビで自分の生涯が語られる、っていう想像なのだろうな。友人の証言によって「僕」のイメージが変わってくるかもしれない。



そんな感じでこの本はおわり。

[結社誌読む172]『未来』2020年10月号  ~ビニール袋にビニール袋を、ほか

結社誌読む172
『未来』2020年10月号



雨傘をひらけば雨はひらかれてわれのめぐりを濡らしはじめつ
╱大辻隆弘「宥恕」



この歌稿読まれることのないことの重みに沈みつつある机
╱笹公人「岡井先生」

→岡井さんを悼む歌が多い号となっている。
この歌を打ち込んでみるまで(つい今まで)、机を「枕」だと思って読んでいた。歌稿が岡井先生に読まれることがないのを寝ながら考えている歌として読んでいた。
机だから、歌稿を整えている段階だろうか。



アンケート用紙置き場に一本のボールペンだけ横たわっている
╱森本直樹

→書きたい思いはあっても、それは文字にならない。「一本」が孤独だ。

補充しないからなくなるんだけど、こういう場所の補充は誰がいつやるのかハッキリしてなかったりするかもね。



頑なに一万円札を受け取らない自販機は夏の親戚のよう
╱本条恵



元妻の墓は他人の墓であり掃除夫として花を手向けつ
╱中沢直人



ビニール袋にビニール袋を捨てる夜あたたかいからだひとつ沈めて
╱竹中優子

→同じビニールの袋同士であっても大きさがちがえば役割がわかれる。人間同士ならどうだろうか。夜でからだを沈めているので風呂とか布団を連想するんだけど、ビニール袋はビニール袋にそのからだを沈めたのだった。



ひとつだけ書けなくなった三色のボールペンのように乗りきるつもり
╱小野伊都子

→オレの机のうえには、一色が書けなくなった三色ボールペンが二本のっている。捨てがたい。
ボールペンの立場になってみれば、失いながらもなんとか乗りきろうとしてるんだなあ。



泣きながら生きるし生きながら泣くよ生きててえらいなどといはれて
╱伊豆みつ

ふくら脛するどく噛まれて泣きし日よ鶏小屋に卵かがやき
╱立川洋子

生きることと泣くことがむすびついている歌を最後にふたつ引きました。



この本おわり

『未来』2021年1月号・工房月旦〈10月号の歌〉

短歌結社誌『未来』の前号評のページ「工房月旦」に執筆したものを置いておく。
これは『未来』2020年10月号の歌について書いたもので、2021年1月号に掲載された。









エレベーターボタンを爪で押す朝最上階に風の抜けゆく
╱コバライチ*キコ

→不特定多数の人が触れるエレベーターのボタンのようなものは、特に現在のような感染症対策が求められる状況では気をつける必要があると考えられます。この歌ではボタンになるべく触れないように爪で押されています。下の句には解放感があり、上の句の閉塞感と対照的です。



月明かりさすリビングは海の底 詩集の余白の胸に残れば
╱飯尾睦子

 日常が詩的な世界になっていて、雰囲気のある歌です。



思うこと伝わらなくて帰り道黒い揚羽に追い抜かれたり
╱高橋菜穂子

→はばたいて追い抜いてゆく揚羽蝶には思うことが伝わらない悩みや苦しみはないように見えたのでしょうね。あるいは、その黒さが何かを象徴しているのでしょうか。



曇天の街を彩る看板の巨大な蟹はオホーツクに向く
╱吉田桜子

→蟹の赤さが曇天の街に映えます。オホーツクが効いています。巨大な蟹が北方に引き寄せられているようです。



突風に青き葡萄は揺さ振らるここにも試練受くるものあり
╱佐藤照男

→この葡萄は、ばらばらに砕けそうになりながらも耐えているんですね。「ここにも」ということは他にも試練を受けている者がいます。「青き」から若さを想像することができます。人も葡萄も試練を受けています。



幼子が描くわが顔 鼻なくて、右目ウインク、おちよぼ口なり
╱雅風子

→女の子が描く絵ってそういうふうになりがちです。あるある、をうまく言葉にしている歌です。



母とふたりチキンラーメンすすりつつ大下容子アナを誉め合う

二人とも大下容子アナが好きわたしの好きは恋に似ており
╱森田しなの

→親子で同じ人を好きなのはいいですね。二首引きましたがこのほかにも大下容子アナの歌があって、一連に三首も大下容子アナの歌があります。もしこれらの歌をいつか歌集に収めることがあったら、手紙とともにご本人に送るといいですね。きっと気持ちが伝わります。



桃パフェを食み進めたるその底にまたふたかけら桃の現る
╱木村弥生

→桃が乗ってて底にも桃があるパフェなんですね。おいしそう。



敬老会マジックする老人のそでにハトいて子ども指さす
╱阪野優

→子どもは正直です。マジックのタネがわかってしまうのは敬老会のご愛敬です。



人は土から生れ土に帰るから一回ぐらい自治会の役やれってか?
╱中野勲

→無茶な理屈で役割を押しつけられそうになっています。土から人が生まれるでしょうか? 歌いおさめが「やれってか?」なのがいいですね。



瓦師の仕事ぷりの速かりしおやつに出した柏餅(もち)もすぐ消ゆ
╱おおた楽

→仕事も速いし、食べるのも速い。何をするにも速い人なんですね。愉快な歌です。仕事っぷり、という書き方になりそうなところを「仕事ぷり」、柏餅と書いて「もち」と読ませるところは一癖ありますが、特に賛成も反対もしないでおきます。

《歌集読む245》岡本幸緒『ちいさな襟』  ~雪の降る気配、ほか

歌集読む245

岡本幸緒『ちいさな襟』。第二歌集。青磁社。2020年8月。



空はもう見飽きたからと飛行機の通路側席えらぶ人あり
╱岡本幸緒『ちいさな襟』



うつぶせの携帯電話がテーブルに長き汽笛を鳴らしていたり
╱岡本幸緒『ちいさな襟』

→動画のなかの汽笛なのか。うつぶせだと、それがイビキみたい。



すきま風に気づくのは冬 読めるけれど書けない漢字が増えてゆく冬
╱岡本幸緒『ちいさな襟』

→たしかに、寒くない季節のすきま風って特に意識しないな。読めるけど書けないのは頭のなかのすきま風みたいなもののせいかもしれないね。



机から落ちてゆきたる広辞苑まだ見ぬ頁に折れ目がつきぬ
╱岡本幸緒『ちいさな襟』



飼い猫の話するとき美容師の鋏もつ手がわたしを離る
╱岡本幸緒『ちいさな襟』



匿名の葉書は読まぬと言うときのDJ少し早口になる
╱岡本幸緒『ちいさな襟』

→少しの早口に何かありそうだ。なにか嫌なことが書いてあったのかもしれない。番組内では読み上げなくても、誰か目を通している可能性がある。読まぬ、が返事だ。



ショッキングピンク色の消しゴムにこすられながら消えてゆく文字
╱岡本幸緒『ちいさな襟』



乗客は次第に減りて雪の降る気配のなかを故郷近づく
╱岡本幸緒『ちいさな襟』

→表紙の花山さんの帯文にもあるように、かすかなことが詠まれている歌集だ。
それにしても「雪の降る気配」はかすかだなあ。まだ降ってないのに気配を察知している。北へ向かっているんだろう。乗客が減っていくのがさびしい味わいを出している。



悔しさはアイスクリームの木の匙をかみしめるとき頂点となる
╱岡本幸緒『ちいさな襟』

→悔しいからかみしめるのか、かめしめるから悔しいのか。冷たさや甘さは負の感情をしずめてくれそうな気もするが、そのなかから悔しさが盛り上がってくる。木の匙じゃなければここまで悔しくならないのでは。



おもしろかったです。ちいさな心の揺れ、いいですね。この本おわり。



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工藤吉生 歌集 『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)

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2018年短歌研究新人賞受賞の第一歌集。
校舎から飛び降り、車にはねられながらも、ぬらっと生きながらえる。

「おかしないい方になるが、高度な無力感が表現されている。」──穂村弘

「人間性が色濃く表れた作品です。黒ずみにちょっとかけてみましょうよ。」──加藤治郎
(短歌研究新人賞選考座談会より)




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。
2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

「未来短歌会」所属

Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)

第61回 短歌研究新人賞 受賞(2018年)

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